ようこそ、マーベリック。
この章では、この世界についてあなたが知っておくべきことについて解説していく。
この世界は“マルクト”と呼ばれている。
――普通ならばこのあとに世界の地理や情勢などの解説が続きそうなものだが、この世界の全容について人類が把握しているだろうことはあまりに少ない。
現在、人類は“聖域”と呼ばれる大規模な魔術結界で守られた領域の中で暮らしており、聖域から出ようとする気が失せるほどに外は危険に満ちている。頻繁に発生する“魔煌災害”や、大量の魔煌をその身に浴びたことで変異してしまった生物である“魔物”の脅威がその代表的な例だ。
これらの危険が周辺地域の調査の足を遠のかせているため、マルクトの大半の地域はいまだ謎に包まれているのだ。
かつてマルクトは、“星樹セフィロト”の恩恵によって楽園のような環境だったらしい。
だが、現在から200年前に発生した星樹セフィロトが破壊された大災害“失楽園”によって世界は一変し、この地獄のような環境に変わってしまった。
これを引き起こしたのは“学会”の“魔術師”どもだ。
失楽園の発生当初、学会はこの事実を隠蔽していたが、200年の月日を経て現在は割と世間に知れ渡っている。そのため、今でも学会に不満を抱きながら暮らしている者は大勢いる。
マルクトの過酷な環境の中で人類が生き残るために“学会”は“星樹印”の配置を模した9箇所の“聖域”を作り出した。
これらの聖域の中で、あなたにとってもっとも重要で身近なのが第6聖域“ティファレト”だ。
そのほかの聖域について知りたければ、ルールブックのp.149を参照してほしい。
あなたが住んでいるのは第6聖域“ティファレト”だ。
この聖域は通称“聖域都市”とも呼ばれており、9箇所ある聖域の中でもっとも多くの人々が住んでいる場所だ。
何でも人口の一極化が進んでおり、聖域全体の人口の半数程度がこの聖域都市で暮らしているのだとか。
人類の技術や文化の粋を結集した大都市にして最大の砦―それが聖域都市ティファレトだ。
ティファレトは全聖域の中心に位置し、ほかのすべての聖域と直接行き来できる転移装置と交易路を持つ。必然的にすべてのものはティファレトを経由して流通するため、常に人と物が集まるのだ。
ティファレトは10箇所の区に分かれており、それぞれ特色や役割を色濃く持っている。
あなた自身が住んでいる区についてであれば、ここの解説よりも詳しく知っているかもしれない(ルールブックp.164~)。
“学会”に所属する高位の魔術師とその家族のみが住むことを許される学会特区だ。
あなたが“学会”のお偉方から直々に招待を受けているのでなければ、おそらく一生縁のない地区だろう。
“学会”の研究施設が集まる地区だ。
あなたが“学会”に所属する魔術師や魔術学院に通う学生であるならこの地区に出入りすることも多いだろうが、そうでなければ立ち入る機会はほとんどない。
さまざまなメーカー企業が集まる産業地区だ。
企業のオフィスビルやプラントがひしめく地帯の周囲には企業関係者の社宅などが立ち並ぶ。
物の出入りが多いため、あなたが企業関係者でなくても、入ろうと思えば意外とすんなり入れる。
医療施設や福祉施設が集まる地区だ。
総合病院・療養所・公民館・一般市民向けの学校・貧民や難民向けの仮設住宅・墓地などが一通りそろっており、出入りする市民のバリエーションも多彩だ。
誰でも出入りできるが、全体的に住民のモラルが高いおかげか治安は悪くない。
政治を司る各省庁や司法機関などが集まる地区だ。
あなたが省庁関係者や司法関係者であれば頻繁に出入りすることもあるだろうが、もし脛に傷を持っているなら可能な限り近づきたくない場所だろう。
聖域都市の中心に位置する地区だ。
この地区の中心には“広域魔術結界”の発生装置である高さ2,500mにも及ぶ巨大な塔がそびえ立っており、この場所だけは聖域管理局の関係者以外は立ち入ることができない。
それ以外はティファレトの中心街らしく、人も事件も多く集まる活気のある場所だ。
ここにはマーベリックがよく集まるBAR“マグス&マブス”(ルールブックp.170)があり、フィクサー(マーベリック向けの依頼仲介人)が依頼にやってくることもある。
さまざまな娯楽施設が集まる地区だ。
有り体に言えば歓楽街であり、高級街と貧民街が混在している。トラブルや犯罪が多発することから、マーベリックの仕事現場になることも多いだろう。
貧困層が多く暮らすスラム街が広がる地区だ。
ほかの聖域からの移民や聖域都市に入る許可を得た難民などがこの地区に流れて来る。中には市民IDを抹消されたモグリの市民も潜伏している。
裏社会の活動の温床となっており、マフィアの元締めが運営する過激な違法レースや野蛮な闘技試合などが密かに行われているらしい。
あなたが金に困っているか物好きでもない限り、この地区には近寄らないほうがいい。
治安維持に必要な施設が集まる地区だ。
あなたが聖域保安局の関係者であれば頻繁に出入りすることになるが、そうでなければ足は遠のくだろう。
聖域都市の唯一の出入り口となる聖域軍の駐屯地だ。
あなたが聖域外で仕事をする際には必ずここを通るため、意外となじみのある場所かもしれない。
聖域都市ティファレトを含むすべての聖域において、もっとも重要なのは広域魔術結界と聖域内の生活基盤の維持だ。そして、これらの維持には“魔煌”が不可欠であり、それゆえに経済は魔煌を中心に回っている。
魔煌資源でもっとも一般的なものは“魔石”と呼ばれる魔煌の結晶体だ。
魔石のおもな入手方法は、魔石の鉱脈を採掘して手に入れるか、魔物を退治して体内に埋まっている魔石を採取するかだ。そのため、魔石を採掘することを生業とする“採掘者”や“魔物”を退治することを生業とする“魔物狩り”は、この世界における一次産業の花形として認識されている。
手に入れた魔石は宝石や貴金属のように換金できる。
すべての聖域では魔煌を通貨として利用している。
ただ、魔煌そのものは無形だし、魔石の物々交換は通貨としての利便性に乏しい。そこで開発されたのが“魔貨”と呼ばれるコインだ。
聖域都市では市民権を得るための対価として1ヶ月に1度の魔煌税が徴収される。
魔煌税は住所を置く地区によって1人ごとの金額が定められており、毎月の初日に支払う義務がある。
納税はアウルバンクの銀行口座からの引き落としが可能であり、銀行口座を持つ市民はわざわざ管轄地区の税務署に行かずとも自動的に納税が完了する。
聖域都市は南北に10km程度、東西に5km程度の広さを持つ“星樹印”を模した領域の中に“球体”を模した10の地区が規則的に配置されており、それぞれの地区が“小径”を模した大通りで繋がっている。
この地区と大通りの配置には魔術的な意味があるらしく、聖域都市のインフラを維持するため、必然的にこのような配置にしているようだ。
大通り以外はおおむね格子状に規則正しく道路で区画整理されており、すべて番号で管理されている。
聖域管理局が運営する地下鉄“メトロ”が聖域都市全土に張り巡らされている。
市民であれば無料で利用できるが、出入りが許可されていない地区の駅の改札をくぐることはできない。
メトロでは融通の利かない場所に行きたいなら、人工精霊(AS)搭載の自動運転タクシー“ガルガリン”を利用するとよいだろう。
M-Phoneで呼び出せば、IDチップが発信する位置情報を頼りに聖域都市内であればどこにでも駆けつけてくれる。車両の防衛機能にも信頼性があり、危険な場所から脱出する際にも重宝する。
聖域に守られていた市民も、ひとたび聖域の外に出ればその恩恵は何の意味も成さない。不用意に命を危険に晒したくなければ、野外には出ないほうがいい。
しかし、マーベリックであれば受けた依頼の内容によっては野外に出ざるを得ない場合もあるだろう。それでも、長い期間を野外で過ごすことは避けるべきだ。
魔煌税を納める能力のない者や犯罪を犯した者は、市民IDを剥奪されて聖域都市から追放されてしまう。
聖域都市では、彼らは“追放者”と呼ばれている。
彼らは野外で生き残るために、比較的安全な場所を見つけて集落や野営地を形成している。運良く彼らの集落や野営地に出くわせば、あなたが野外で生存する確率は上がるかもしれない。
野外でもっとも身近な脅威といえば“魔物”だろう。
魔煌の影響で変異した生物全般を指す“魔物”は、変異の過程で理性を失い凶暴性が増す傾向にある。元が人間のような高い知能を持った生物であっても、ほとんどの個体が話が通じない。
仲良くしようなどと考えないほうが身のためだ。
さて、あなたを取り巻く世界の景色が見えたところで、あなた自身の話をしよう。
あなたは世の中の不条理や理不尽に不満や怒りを覚えたことはないだろうか?
善良な人々を食い物にする悪党が許せない?
権力を振りかざし人々を苦しめるやつが許せない?
社会的な支配構造に抑圧される現状が許せない?
――もし現状に何らかの不満を持ち、それに抗おうと行動するならば、あなたは“マーベリック”だ。
マーベリックは、職業でもなく、組織でもなく、ましてや社会階級でもなく、反逆・反抗・反骨……つまり“パンク”を体現している者の名なのだ。
マーベリックには、しばしばほかの者には頼めないような危険な仕事(ビズ)が舞い込んでくる。
それらのビズは、ビズボード(ルールブックp.183)を介さずにフィクサーがあなたに依頼を持ちかけてくる。この街でビズをするならこの4人の名前を覚えておくといい。
“パンク”と聞いて、あなたがどう振る舞いたいかをすぐに想像できるならそれを実行すべきだ。きっと、その考えはすべて正しい。
だが、すぐに想像がつかないなら、下記のマーベリックの振る舞いの類型を参考にしてもいい。
どんなに辛い境遇でも、どんな苦境に立たされようとも、生きることを諦めず、生きることに貪欲であれ。
死と諦観への反抗は、人間のもっとも原始的な衝動とも言える。
誰しも、心の底では“生きたい”と望んでいる。あなたはその燻る本心に火を付ける象徴的な存在だ。
周りに何と言われようとも、社会規範が許さないとしても、それらに屈さず己の信じた道を行け。
自身が信じる想いや思想は、あなたという存在を表現するもっとも大切なピースだ。
抑圧され迎合してしまいがちな社会だからこそ、その強い信念はひときわ輝きを増す。
道理に合わないことや、外道に堕ちたやつらから目を逸らすな。そいつが巧みに法の網から逃れていたとしても、圧倒的な社会的強者だったとしてもだ。
“気に入らない”と思ったのなら、それはあなたが行動を起こすのに十分な理由だ。
あなたは自分の理想の姿を描けているか? ああなりたいと思える人物はいるか?
もしあなたに理想の姿や手本となる存在があるならば、それを目指して、背伸びして振る舞うことから始めたっていい。
誰にだって、自分自身にだって憧れは止められない。
あなたが現状を窮屈だと思うなら、それにこだわらず自由に振る舞ったって構わない。
それは、ここに挙げたマーベリックの類型であっても例外ではない。もっと言えば、パンクの定義をすること自体、あまりパンクではないかもしれない。
だが、真の自由は無軌道であり、混沌であり、真の不自由でもある。自由を求めて自由に縛られるなんてことになったら本末転倒だ。
己の自由を決める“自由”があなたにはあることを忘れないでほしい。