『マジックパンクTRPG(以後、マジックパンク)』は、テーブルトークロールプレイングゲーム(以後、TRPG)のルールブックである。
本書は、魔術を背景に高度な文明社会を実現した異世界“マルクト”で、プレイヤーは自分の信念を貫いて強かに生きる存在“マーベリック”となり、理不尽な支配に虐げられる者たちのために戦うTRPGだ。
“マジックパンク”は、“○○パンク”と称されるSFジャンル(サイバーパンクが代表的)のひとつだ。
“○○パンク”と称されるものの多くは、「高度に発達した象徴的なテクノロジー」「ディストピア的な社会や環境」「社会や環境からの抑圧に対する反抗」の3つの要素が中核にある。
これをマジックパンクに当てはめてみると「高度に発達した魔術」「魔術資源の取得が困難な環境で生活を魔術に依存した社会構造」「魔術を管理する特権階級による支配や生きづらい社会に対する反抗」となる。
本書はタイトルに直接“マジックパンク”を掲げていることからも分かる通り、上記の定義をもとに世界を描いている。
200年前に起きた災害“失楽園”により、マルクトの大地は魔術のパワーソースとして人類に恵みをもたらしていた“魔煌”が大量に噴出したことで汚染された。これにより、人類は“聖域”と呼ばれる限られた生存圏の中で生きていくことを余儀なくされた。
聖域は魔術やその技術によって作られた魔導具である“Ma-GEAR”によって管理されており、この機能を維持するために大量の魔煌を必要とした。そのため、魔煌資源は主要な社会的価値を持ち、聖域内での経済は魔煌で回っているのだ。
人類が“失楽園”によって生まれてしまった過酷な環境で生存できているのは、魔術の恩恵があるからにほかならない。
その魔術を研究・管理しているのが“魔術師”たちであり、彼らが組織する“学会”である。
人類の大多数は、いわば生殺与奪の権を学会に握られているのと同義であり、魔術師はおのずと絶大な権力を得ることとなった。
実際、魔術師は特権階級的な扱いを受けており、逆らおうとする者はほとんどいない。
そんな中にも、“学会”の支配に対して反抗し、己の意志や信念を貫く“マーベリック”と呼ばれる者がいる――そう、あなたのことだ。
多くの者はマーベリックを忌避している。彼らは常に学会から目を付けられる存在であり、彼らに関われば自らもあらぬトラブルに巻き込まれることは火を見るよりも明らかであるからだ。
それと同時に、彼らの在り方に憧れ一目置く者も存在する。社会規範に従順な者であっても、本当は少なからず彼らのように自由に生きたいと思っているのだ。
TRPGとは、複数の参加者による会話を主としたコミュニケーションを通じて、物語を創り共有していく遊びである。
参加者の1人はゲームマスター(以後、GM)と呼ばれる役割を担当する。ほかの参加者はプレイヤーと呼ばれる役割を担当し、プレイヤーキャラクター(以後、PC)を操作する。
TRPGを遊ぶためには物語の筋書き――シナリオが必要だ。
『マジックパンクTRPG』には最初に遊ぶためのシナリオを掲載している。初めて『マジックパンク』を遊ぶ際は、掲載されているシナリオを用いるとよいだろう。
なお、シナリオはGM以外は読まないこと。
もし、読んだあとでこのシナリオをプレイヤーとして遊ぶことになった場合は、プレイ中にシナリオのネタバレになるような発言をしないこと。それがほかの参加者へのエチケットだ。
また、本書に書かれているシナリオについてSNS等に書き込む場合は、本書を使って遊ぶほかの人のためにも、ネタバレにならないように気をつけてほしい。
プレイヤーはシナリオに参加するために自分が担当するキャラクターを1人ずつ作成する。
これをPCと呼び、物語の主人公たちとなる。
PCの準備ができたら、いよいよシナリオをプレイすることになる。
GMは“プレイヤーを楽しませること”を心がけて、プレイヤーはGMの指示に従って、全力で楽しもう。
ロールプレイとは、役割(Role)を演じる(Play)行為である。ここでの役割とはプレイヤーが作成したPCのことであり、プレイヤーはPCを「行動させる=演じる」ということになる。つまり、ロールプレイとは“キャラクターの役割を演じる”ことである。
作成したキャラクターにはそれぞれの能力や立場、あるいは背景といった設定があり、それらを考慮に入れて行動することによって、初めて“ロールプレイをした”ことになる。
役割という制限のもとで最善を尽くすことこそがロールプレイの妙であり、それこそがTRPGの楽しみ方だと言えるだろう。
PCのロールプレイを行っていく中で、プレイヤーがほかの参加者にPCの行動を伝える方法として、大きく分けて2種類のアプローチが考えられる。
ひとつ目は、PCの行動や仕草がどのようなものかを描写する方法だ。これは、小説で情景や状況を描写する文章や、脚本のト書き(セリフ以外の動作や行動を指示する部分)によく似ている。
ふたつ目は、セリフや身振りなどの演技で伝える方法だ。これは、即興演劇の掛け合いによく似ている。
これらのうち片方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。そして、描写や演技を上手にできること自体は魅力的ではあるが、必ずしも上手くやる必要はない。
もっとも大切なのは“みんなで楽しく遊ぶ”ことなのだ。
『マジックパンク』は、本書を通じて参加者全員が楽しい時間を過ごすことを目的とするプレイツールである。本書に紹介しているルール、データ、シナリオなどのすべてが、そのために存在している。
そして、『マジックパンク』の存在意義は“あなたが『マジックパンク』を用いて楽しく遊ぼうと思う”ことであり、参加者全員がまた『マジックパンク』で遊ぼうと思い、それが繰り返されていくことにほかならない。以上を踏まえて、『マジックパンク』を全力で楽しんでほしい。
複数の参加者で遊ぶゲームにおいて、ゲームにのぞむ姿勢は、全員がゲームを楽しめるか否かに直結する。
ゲームに対して不誠実な態度の参加者が1人でもいれば、途端に遊んでいるゲーム自体が楽しくなくなってしまうものだ。一人ひとりが本気でゲームにのぞみ、全力で楽しい時間を共有してほしい。
『マジックパンク』は“協力ゲーム”である。よって、すべてのプレイヤーが協力してゲーム(あるいはシナリオ独自)の勝利条件を満たすことを目指すのがゲームに対する基本的な姿勢となる。
プレイヤーにとっての対戦相手は、参加者の誰でもなく、シナリオに設定されたプレイヤーの勝利を阻止しようとする障害である。
注意してほしいのは“GMは裁定者であって対戦相手ではない”ということだ。
GMはセッションを進行してプレイヤーを楽しませるホストプレイヤーだ。このことから、“ゲームを遊ぶ”という観点から一歩離れた立場を取ることになる。
しかし、GMにはホストプレイヤーという立場でしか味わえない独自の楽しみがある。それは、“楽しませる”楽しみ、そして“創造する”楽しみだ。
遊びという観点から見れば、役割の多さに見合ってあまりあるGMならではの“楽しみ”を感じることができるだろう。
GMについて深く知りたい場合は『マジックパンクTRPG』を参照してほしい。
『マジックパンク』は、ゲームの参加者全員が協力してひとつの物語を創り共有することを目指すゲームである。そして、その物語が生まれる過程や物語そのものを楽しむゲームでもある。
ここでは、『マジックパンク』を楽しむために必要な約束事を提示していく。
『マジックパンク』をプレイするとき、GMにはいくつかの権限が与えられる。
ただし、権限を行使するにあたり、GMはできるだけ正しいルールで遊ぶように心がけること。また、誰に対しても公平なルールの運用を心がけること。
TRPGは仮想の現実世界であると言える。本書では、その世界を再現するために必要なルールを記載しているが、それでも想定外の事態は発生するものだ。
ルールによって規定されていない状況に直面した場合やルールの適用を迷う場合に、GMはどのように裁定するかを決定する権利を持つ。また、ルールを変更したり、ルールの一部を省略したりしてもよい。
ただし、この権利を行使する際には、“状況にふさわしいか”または“公平か”をもう一度確認すること。ルールを逸脱することが可能なこの権利には、相応の責任が伴うのだ。
参加者全員が納得し、ゲームがより楽しくなるようにこの権利を行使してほしい。
GMは自らが確認していない、あるいは許可していないダイスロールの結果を棄却し、やり直させることができる。
ただし、やり直しをさせること自体がプレイヤーにストレスを与えることもあるため、GMはプレイヤーのダイスロールをできるだけ見逃さないように心がけてほしい。
GMは、ノンプレイヤーキャラクター(以後、NPC)が行う行動の結果をダイスを振らずに自由に決定できる。
ただし、NPCにデータが設定してある場合は、なるべくダイスを振って結果を決定すること。
これは、プレイヤーに余計な不公平感を与えないようにするために必要なことである。
正しいルールで行われたダイスロールは、いかなる場合でも結果を巻き戻してはならない。これは、GMであっても例外ではない。
『マジックパンク』のキャラクターは、ダイスロールによって行動の成否や成果を決定する。
その結果が気に入らないからといって、巻き戻してなかったことにしてしまったら、途端にゲームとしての楽しみが色褪せてしまうだろう。
また、GMはNPCに対して「結果の決定」の権利を持つが、PCには行使できない。どうしてもPCの行為をダイスロールの結果で決定したくない事態が発生した場合は、ダイスロールを行う前にGMが独自にダイスロール以外の解決方法を提示すること。
例えば、時間が限られている場合に、明らかに大勢が見えている状況において、時間の短縮のためにダイスロールを免除して結果を決定する――といったものであれば問題ないだろう。しかし、プレイヤーが“失敗したくないからダイスロールをせずに成功させたい”という自分勝手な要求をするのであれば、GMは即座に却下すべきだ。
もしも、GMあるいはプレイヤーがルールの適用を間違えた場合は、速やかに訂正し、以降は正しいルールに従って処理すること。
このとき、すでに適用の終わってしまった結果については安易に時間を巻き戻さないほうがよい。
これは、巻き戻しをするとして“どこまで巻き戻すか”や“どの部分を訂正して適用するか”を公平に判断するのは難しく、それをすることに多くの時間を費やしてしまうからだ。
TRPGは創造的で魅力的な遊びである。しかし、遊ぶうえで参加者の安心感を保つことも重要である。
そこで役立つのがセーフティツールである。これを使うことで、全員が快適に遊べる環境を整えることができる。中でもXカードは、シンプルで効果的なツールとして有名である。TRPGにおける不快感やストレスを軽減し、心理的安全を守る役割を果たす。
Xカードの使い方は簡単である。
まずゲーム開始時に、GMがその存在を説明する。
「ゲーム中に避けたい内容があればXカードを使ってください」と伝えるだけで準備は完了である。
ゲーム中にプレイヤーが不快に感じた場合、カードをタッチするか、オンラインセッションであれば「X」と入力することで意図を示せる。
カードが提示された場合、速やかに問題の内容を変更するか、省略しなければならない。このとき、理由を深く追及せずに対応することが重要である。
例えば、暴力描写を避けたいという意図がある場合、その場面を平和的な方向に変えることができる。これにより、全員が安心してゲームに集中できる環境が作れるのである。
ほかにも「ライン&ベール」や「セッションゼロ」といったツールが存在する。
それぞれの特性を理解して使い分ければ、さらに安全で楽しいセッションが期待できるだろう。
セーフティツールは、TRPGを楽しむための重要なサポートツールである。特にXカードは導入が簡単で、効果的な選択肢となる。ただし、セーフティツールを取り入れる自由がある一方で、取り入れない自由も存在する。どちらの選択も尊重されるべきである。
誰もが安心してセッションに参加できるよう、ぜひセーフティツールを取り入れることを検討してみてほしい。心地よい環境づくりが、TRPGの楽しさを最大限に引き出す鍵である。