虚構侵蝕TRPG

ルールブック

虚構侵蝕都市・墨東区

虚構タイムズ新米記者 檜久間成水 ひのくま・なるみ

はじめまして! 虚構タイムズVER-TH版の読者のみなさん。新米記者の檜久間成水です。

突然ですが、皆さんは、可愛い後輩を追い詰めて再起不能にしやがったパワハラ上司の横暴に腹据えかねて、物理的に一発カマしたことはありますか?

アタシはあります。で、とーぜんクビになったんで、浅草にある実家の銭湯を手伝いながら、自宅警備員してたんですよ。そしたら、兄ちゃんが虚構タイムズVER-TH版で記者を募集してるっていうじゃない。

結果、ここにいるってわけです。よろしくね。

新企画:虚構タイムズ的墨東区ガイド

虚構タイムズと言えば、読者の皆さんはご存じの通り、世間に流布する都市伝説やオカルト的な事件などの、世界の秘密と不思議に挑戦し続けている雑誌です。

昔から、K林(仮)編集長が「墨東区では虚構の現実への侵蝕“虚構侵蝕”が頻発しているんだよ!」と主張して、虚構侵蝕の記事が多いのも特徴ですよね。

兄ちゃんの本棚にあったんで、中二くらいまで読んでました。で、そのK林(仮)氏が言うんです。アタクシは生まれも育ちも墨東浅草の地元っ子ですので、その目線で“虚構侵蝕都市・墨東区”を紹介しろって。

というわけで、地元・墨東区を“虚構侵蝕”関連の情報を添えて、ご紹介して行きたいと思いますよっと。

墨東区の歴史

現在の東京21区のひとつ、墨東区ができたのは戦後のことで、実は戦前の東京の区は35あったらしい。

さっきヴァスって(※VER-THで検索するという意味のネットスラング)初めて知りました。で、戦後復興のあれこれで整理統合されて「隅田川を中心とした江戸の東部地域」で「墨東区」になったとか。

そうそう。K林(仮)編集長によると「この墨東区こそ虚構が現実を侵蝕して生まれた世界なんだよ!」とのこと。彼が観測者から聞いた話では、虚構侵蝕で墨東区になる前は「台東区、墨田区、江東区」とかいう3つの区だったっていうけど……ピンとこないなぁ。

墨東区の地区

墨東区には、ざっくり分けると6つの地区がある。

上野地区は墨東区一のターミナル駅上野駅と、あとパンダ。上野公園の中には美術館や博物館がわんさかあるし、ちょっと怪しい商店街アメヤ横丁も有名。

我らが浅草は、陵雲閣(浅草十二階)と六区界隈は宇宙の中心と言って過言じゃないし、浅草寺さんや浅草の魂、浅草神社(三社様)もある。浅草はいいぞ。

本所・向島地区は、商業とものづくり特化で、大企業のビルや商業施設が経済でブイブイ言わせてる。あと、墨東スカイツリーとVER-TH本社があるのが自慢。

神田地区は、神田明神さんをはじめ、墨東ドームシティ、秋葉原などなど、娯楽には事欠かない。

両国地区は、世界に誇るボクウッド(墨東映画撮影所)に、超巨大な学校墨東学園(アタシの母校)などがひしめく、おもちゃ箱みたいな街になっている。

最後の港湾地区は、何でもアリ。北部にスラム街、ベイエリアはマフィアの縄張り。一方、墨東ビッグサイト近辺は観光地でオタクの聖地。うん、カオス。

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“新米記者” 檜久間成水 ひのくま・なるみ
虚構タイムズ
新米記者(非観測者)
性別:
年齢:24歳
「貴方まさか観測者? でもって今、虚構侵蝕起こってる? ……やった! お願い。アタシに取材させて!」

オレがはじめてこの女に遭遇したのは、ある虚構侵蝕が発生した時だった。浅草にある観測者が集まる店“喫茶幻燈”でいきなり声をかけられた。最初はウザいと思った。今も思ってる。
そのときは、虚構タイムズの記者としての肩書きと行動力、あと顔の広さ(墨東区の有名人と大体顔見知り)が便利だったんで、利用させてもらった。
……それが仇になって、虚構侵蝕が起こるたびに何度も何度も絡まれるようになっちまった。お前も気を付けろ。
仲間が言うには、裏表のない、善良ないい娘(江戸っ子気質とも言われてたな)らしいが、オレは苦手だ。
あと、彼女は観測者じゃない。虚構侵蝕が解決すると何が虚構だったか認識できなくなる。だから毎回、観測者の証言を聞き取って記事にしている。
その記事が胡散臭すぎて、救いようがない。苦労が何も報われていない。……別に、可哀そうとか思ってないぞ。

浅草地区


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紹介の順番からすれば、一番北の上野地区から紹介するのがスジなのは分かっている。だが断る!

というわけで、しょっぱなはアタシの愛する地元浅草です。文句ある? ないよね。ならばよろしい。

浅草は一言で言えば、東京を代表する観光地ということみたい。地元民的にはあんまりピンときてない。

浅草寺さんや雷門、仲見世通りとかの商店街。陵雲閣に浅草公園六区、浅草花屋敷遊園地、観光客向けの呑み屋街ホッピー通りなど、確かに見どころは多い。

そうかと思えば巨大風俗街、吉原遊郭があったりと、大人から子供まで楽しめる街なのは間違いない。

あと、やたらお祭りが多い。地元民の魂三社祭を筆頭に、お富士さんの植木市、ほおずき市に隅田川花火大会、サンバカーニバル、東京時代まつり、酉の市、羽子板市と、年中何かしらやってるお祭り好きな土地柄でもある。しかも、これは大きいイベントだけ。小さいのも数えたらこの数倍。ほんと、ここで生まれ育ったら、よその土地へ行けないなって思う。

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金龍山 浅草寺

さて、浅草と言えば浅草寺さん。浅草寺さんなしでは語れない。浅草寺のはじまりは西暦628年。推古天皇(聖徳太子の叔母さん)の頃。隅田川で漁をしていた漁師兄弟の網に観音様の像がかかったという。

ちなみにこの観音像、汚い木片だったようで、兄弟は「魚じゃねーじゃん」と隅田川に捨てたらしい。

でも観音様はくじけない。何度捨てられても兄弟の網に猛アタック(コントかな?)し続け、漁師兄弟も「なにこれ。こわ……」と地元の偉い人に見せたところ、観音像と判明。祀ることにしたのが始まり。

その後、鎌倉幕府や江戸幕府の庇護を受け、特に徳川三代将軍、徳川家光公によって五重塔や本堂が建てられてからは大ブレイク。江戸の文化の重要な位置を占めるようになって現在に至る、という感じ。

ところが、家光公の作ってくれた本堂と五重塔は戦争で焼けちゃったので、今の本堂(まじまじ見るとむやみにデカイ)は戦後に作られたコンクリート製。屋根瓦は平成の大改修でチタン製に魔改造されている。

あと、本堂の地下には通路が巡らされていて、境内のどこにでも地下から行ける。噂によると、浅草寺と縁の深い上野の寛永寺に通じているとか。マ?

そうそう。東京の顔でもある雷門も戦後に寄進されたやつで普通にコンクリの塊。考えてみると、歴史はあるけど、歴史のある建物少ないよね。浅草寺さん。

浅草神社(三社様)

さっき浅草寺の観音像を拾った漁師兄弟と、観音様だと気付いた偉い人がいたじゃない? 浅草寺のすぐ脇にある浅草神社はその3人、土師真中知(偉い人)、檜前浜成(漁師兄)、檜前竹成(漁師弟)を三社権現として祀った神社で、浅草の魂の祭り、三社祭を主催している神社だ。通称、三社様。

三社様の社殿は家光公の作ってくれた社殿が、戦災を逃れて残っているというのはかなりの推しポイント。コンクリとは違うのだよ。コンクリとは。

あと、三社祭で披露される、地元民が受け継いできた伝統芸能、びんざさら舞も伝承されていて「室町時代からほとんど変わっていない」のがウリ。

それはそれでシーラカンス的な意味で貴重だけど、単調で地味なのは否めないかなぁ。

陵雲閣(浅草十二階)

そして、浅草の第二の顔と言えばやっぱりこれ。浅草六区にそびえる陵雲閣。通称、浅草十二階をおいては語れない。なにせ地上12階。53mの高層建築ですよ。

明治23年(1890)の開業以後、一度は飽きられて経営難に陥りながらも、関東大震災に耐え(このときの大地震に負けず立ち続ける姿が“東京復興の象徴”になったことで再ブレイク)東京大空襲でも奇跡的に焼け残り(このときも“東京復興の象徴”以下略)今も六区に君臨している地元民の誇り。

中には浅草&東京土産のお店や、休憩所が入っていて、浅草観光の拠点のひとつになっているけど……微妙に薄暗いし、あちこちボロい&薄汚れてて、場末の観光センターっぽさがすごい。それも味なんだけど。

まぁ、築130年越えの超老朽化物件だしボロいのは仕方ない。でも、名物の“日本初の電動エレベーター”が故障しっぱなし。はやく修理したげて。

浅草公園六区

陵雲閣の下に広がる、六区公園にある瓢箪池の畔には、浅草随一の歓楽街が広がっている。江戸の頃から盛り場として有名だったらしくて、明治・大正(関東大震災で燃えたけど復活)・昭和(戦争で燃えたけど復活)・平成(少し失速)・令和(墨東スカイツリーの影響とかで盛り返し)と、一貫して賑わっている。

そんな過去の栄光はさておき、アタシにとって重要なのは、瓢箪池の西岸にずらっと軒を連ねた映画館の大群。通称、映画館通りですよ。

各映画会社の旗艦劇場が軒を連ね、ボクウッドが近いからワールドプレミアの会場になったりするし、裏に入れば名画座もあるし、映画好きには天国!

あの環境が無かったら、アタシ映画好きになってなかったなぁ。学生時代はよく、新聞屋さんが持ってくる優待券や、酔った地元のおっちゃんからせびった株主優待券(浅草には、昼間から呑んだくれてる小金持ちのおっちゃんが多い)で入り浸ったものです。

あと、大きめの劇場や芝居小屋、寄席(えっちな劇場や、えっちな映画館)も多くて、大衆演劇からお笑いライブまで、だいたいのジャンルを網羅してる。

一方の瓢箪池の東岸はホッピー通り。つまり呑み屋街になってる。店構えこそ安酒屋なんだけど、そこは観光地なもんで、お値段は普通の呑み屋並みか、ちょい高い。つまり、地元民はあんまし行かない。

そうそう。瓢箪池と言えば。昔から河童が出るという噂があったりする。最近は恐竜の生き残り“ヒョッシー”が出るとか。引き続き河童も出るみたい。

まぁ、酔っ払いが、酔って瓢箪池で泳いでる酔っ払いを河童と見間違えたとかでしょうが。

アタシも、某「煮込みしかない鯨屋」で呑みすぎて、瓢箪池で泳いだことあるし。傍から見たらさぞや河童に見えたことでしょーよ。……若さ故の過ちだわ。

あと、虚構関係の話だとK林(仮)編集長が「今の六区界隈の姿は虚構侵蝕の結果なんだよ! 本来の陵雲閣は関東大震災で崩壊して、六区の映画館は全滅している!(知りあいの観測者から聞いたとか)」って言ってるけど……そんな馬鹿な。ありえないっしょ。

喫茶 幻燈 げんとう

実家の近所にある喫茶幻燈は、アタシのいきつけの喫茶店。幻灯機を模した看板のかかった門を潜ると、日本庭園の広がる趣のある佇まいは、江戸時代の豪商の屋敷をそのまま再利用したから。

今流行の古民家カフェというやつだけど……実際は近所のガキが日本庭園の池の鯉に砂利を食わせてたら、父親に拳骨を喰らってギャン泣きするような場所でもある(ほんと、あの拳骨は痛かった……)。

母屋にある喫茶店は、朝から深夜まで営業している。切り盛りしているのは、メイドの虚影灯さん。バイトの子も何人か。なぜか姿を見せない喫茶幻燈のマスター(常連はそういうものだと受け入れている)の指示でテキパキと仕事をこなす有能な人だ。

あまり多くを語ろうとしないクールビューティーで、いまいち感情の読みにくい人だけど、冷たい人というわけではない。悩みを真摯に聞いて、的確な助言をくれたりもする。彼女の「パワハラ上司を殴ったことは忘れて、次を考えたほうがいいと思います」という言葉で、アタシは次に進めた。結果今こんな感じ。

また、姿の見えないマスターも粋な人のようで、そのときは店の奢りでパフェを出してくれた。好き。

あと、物心ついてから気がついたんだけど、このお店には変な客が多い。MIBみたいな黒人の人から、年中黒コートを着たおっちゃん、メイド服の男の子(たぶん)、ゴスロリの幼女まで、バラエティ豊かだ。

そして、彼らの話している内容は……だいたい映画の話だ。ボクウッドの人なのかな?(時々、有名なベテラン女優さんも彼らの輪の中にいるし)とも思うけど、何度盗み聞いても、なぜか彼らの話の内容を長く覚えていられない。記憶力には自信あるのに。

編集長が言うには「彼らこそ観測者なんだよ!」とのことだけど……いやいや。……いや、あり得るのか?

これはちょっと喫茶幻燈に通い詰めて、可能なら問い詰めて、真相を探ってみる必要があるかもしれない。 

そうそう。実はこの店。夜は蔵を改装したバーでお酒も出している。お酒の種類も豊富で、大体何でも置いてあって、一杯ひっかけたくなったときは重宝する。

でも泥酔は厳禁。騒ぐと灯さんに放り出される。お酒は呑まれずに飲むようにします。ごめんなさい。

“万能メイド” 虚影灯 うろかげ・あかり
喫茶幻燈
メイド長(観測者)
性別:
年齢:20代(?)
「こちら、マスターからの今回の虚構侵蝕の情報です。あと、言伝が。『君たちの選択に任せる』だそうです」

浅草にある、江戸時代の豪商の屋敷を改装した古民家カフェ喫茶幻燈は、いつの頃からか、世界各地から集まった観測者のたまり場になっている。
敷地内の離れは幻燈荘という旅館になっていて、住んでいる奴もいる。
そして、幻燈の喫茶部を切り盛りしているのがこの虚影灯サンだ。常に冷静沈着に、必要なら人の世話も焼きつつ、喫茶の仕事を卒なくこなし、虚構侵蝕が起こった際は観測者として、同じく観測者である喫茶マスター(なぜかその姿を見た奴はいない)の指示で、虚構の収束に力を貸してくれる。
観測者の間では、実は彼女自身がマスター。または喫茶幻燈自体が意志を持つ虚構体=マスターではないか、とかいろいろ言われてる。……くだらない。役に立つ味方なら、それでいいだろ。
あと、喫茶幻燈はアンカーだ。どんな虚構侵蝕が起こっても、喫茶幻燈であり続ける。観測者が溜まるのも納得。

幻燈荘

喫茶幻燈の敷地内には、2階建ての立派な離れがあって、長期滞在メインの旅館、幻燈荘になっている。

見た目より多くの客室があるらしくて、バラエティ豊かな人たちが寝泊まりしてる。具体的には、喫茶部によく入り浸っているコスプレ集団“観測者(かもしれない人々)”たちのほとんどが、ここの泊り客だ。

賃貸もしているらしくて、普通に住んでいる人もいるとか。あ、もちろん、お泊りは1泊からOKとのこと。

ドリヰムシアタア

映画館の多い浅草には、アタシの一番のお気に入りの映画館がある。浅草六区から少し離れたところにある小さな映画館“ドリヰムシアタア”だ。

大正ロマンが薫るレトロな看板と趣のある佇まいと言えば聞こえはいいけど、ようはオンボロ。そしていつもガラガラ。本気で経営が心配。大丈夫? クラファンとかする? 手伝うよ?

ここには子供の頃、幼馴染と2人で入り浸ってた。

先代映写技師のお爺ちゃんが面倒見いい人で、映写室から映画を見せてくれたり、お客さんがいない日とかは「観たい!」とダダをこねた映画を地下フィルム倉庫から引っ張り出してきて、内緒で上映してくれた。

同じようなリクエストは結構あるみたいで、今も昔も貸し切りで上映していることがある。そっちがメインの現金収入なのかも。実は儲かってたりする?

しかし、あの地下フィルム倉庫、どうなってるんだろうね。映画なら、何でもある。アタシの無茶ぶりに近いリクエストにノーと言われたことがない。

現在、このドリヰムシアタアで映写技師をしている件の幼馴染、トトっち(本名は、都鳥蜃一)によると、ボクウッドから保管を任されているフィルムがあるから、大体何でもあるとのこと。一応筋は通ってる。

とりあえず。どうしても観たい映画があるなら、まずドリヰムシアタアに行ってみるといいことあるかも。

古今東西の名作から、お蔵入りになった作品、制作中止になったはずの映画(フィルムはあるんだから、完成はしてたんでしょうが)まで本当何でもあるよ。

“トトっち” 都鳥蜃一 みやこどり・しんいち
ドリヰムシアタア
支配人兼映写技師(非観測者)
性別:
年齢:24歳
「今日はなに上映します? お。通ですね。僕も好きです。知ってます? 実はこの映画は(延々蘊蓄を語る)」

浅草にあるドリヰムシアタアは、観測者の間では有名な施設だ。ここはかつて「いつでも、どんな映画でも観ることができる夢の映画館」という虚構侵蝕として現れた。だけど、観測者は映画好きが多い。……分かるだろ。
奴らは「夢の映画館」を手放したくなかったんだ。勝手な奴らだ。
今のドリヰムシアタアは劇場そのものが意志を持つ虚構体だ。虚構侵蝕の影響を受けないアンカーでもある。
つまり、仮に虚構侵蝕の影響で、虚構の元になった映画が存在しない世界になっても、ここでならその映画を観ることができる。虚構を収束させる情報源としては、最強のもののひとつだ。
しかし欠点もある。ドリヰムシアタアは彼自身が選んだ映画を愛する人間(非観測者)がいないと存在できない。
要するに、今の支配人兼映写技師の都鳥蜃一(重度の映画オタク)に何かあったら、消滅するかもしれない。

吉原遊郭

小学生の頃、浅草地区の北にある公園(近くに仲のいい友達の家があった)によく遊びに行っていた。

でも、親たちはあんまりいい顔をしなかったことをよく覚えている。なぜかって? 公園の隣がおもいっきり吉原遊郭。つまり風俗街だったからだ。

吉原遊郭と言えば、江戸時代から続く歴史ある風俗街で、お堀や塀は埋め立てられているものの、当時の置屋(遊女のいるお店)がまだかなり残っている。

歴史が長いだけあって、虚構関連の話題には事欠かない。曰く、江戸の大火で焼け死んだ遊女の幽霊が大量に出る。大正の頃まで、吉原遊郭には人喰い鬼の兄妹が巣食っていたなどなど、挙げればキリがない。

もっとも、風俗店の半分以上は戦後建てられた雑居ビルにピンクや紫のネオンがケバケバしく踊る、なかなかに子供の教育に悪そうな店構えをしている。

とはいえ、幼い頃のアタシはよく分かってなくて。

時々公園の前を通る花魁道中が綺麗でかっこよくて、いっつもわくわくしながら見てた。

花魁の姐様がたにもすごく可愛がってもらったっけ。禿の衣装を貸りて、花魁道中に参加したりね。

その結果、父さんと母さんに「大人になったらオイランになる」と宣言。ドン引き&理由の説明なしに問答無用で却下されたのをよく覚えてる。

ともあれ、現在の吉原遊郭は、現代の風俗街と、江戸時代から続く遊郭の文化のふたつが同居する、性のテーマパークとでもいうべき風俗街になっている。どっちで遊ぶかによって、お作法もお予算もちがう。

もちろん、遊郭側のほうがお作法の多さもお値段もケタがちがう。とはいえ、江戸の頃よりはお作法は緩和されて、よほどの無作法を働かなければ、ひと通りのことはしてもらえるみたい。なので、外国人観光客に大人気。近くではヨシワラオイランマナーブックを必死に読んでいる外国人のおっちゃんをよく見る。

そんなのを見ながら、ある日「アタシも男に生まれてたら、体験したかったなぁ」とかボヤいていたら、通りかかった知り合いの花魁、稲成太夫姐さんに「女性向けコースもありんすよ? わっちでよければいかが?」とか言われて、肝をつぶしたことが。いや、アタシそっちのケないし。そんなお金もないし。

……でも、正直興味はある。虚構タイムズの企画とかで予算出ないかな。会社の金で! 風俗行きたい!

“吉原のお稲荷様” 稲成太夫 いなりだゆう
吉原遊郭
遊女(虚構体/観測者)
性別:
年齢:30代(?)
「あら。旦那さん、わっちに御用ということは……御指名で? はぁ。今日も虚構のことでありんすか。いけず」

浅草には江戸時代から続く吉原遊郭がほぼ当時のままの姿で、当時の場所に存在している。当然、元は虚構だ。
残っちまったものは仕方ない。けど、ドリヰムシアタアの例を考えると、観測者に吉原の虚構を収束させる気が無かったんじゃないかと邪推したくなる。
でもこの吉原、ただの吉原じゃない。まず、狐の妖怪(虚構体)が吉原一の花魁として君臨している。そればかりか、昔鬼が巣食ってたとかいう話まで。
絶対リアルの吉原じゃないだろこれ。複数の虚構の吉原が融合したまである。
でも件の狐の花魁こと稲成太夫はオレたち観測者に好意的で「数百年生きている」だけあって、このあたりの歴史や知識は役に立つし、吉原を数百年間見守ってきた吉原神社に属する稲荷でもある。吉原を守るためなら力を貸すはず。基本的に世話焼きで人懐っこい女だ。オレは苦手だけど、何かあったら頼ってみるのも手だろう。

浅草駅界隈

最後は、雷門近くの浅草駅界隈。JRこそ通っていないけど東洋最初の地下鉄、銀座線をはじめ、浅草線、墨東スカイツリーラインと3つの路線が乗り入れている。……本音言うと、JRも来てほしい。微妙に不便。

駅前には、最近アールデコ調にリフォームした老舗デパート浅草松屋(すぐ近くに同名の牛丼屋チェーンがあるので「松屋前」での待ち合わせはしないほうが無難)や、神谷バー、すき焼ちんやなどの老舗が軒を連ね、隅田川にかかる吾妻橋の向こうには、通称う〇こビルがそびえ立つクソのように建っている。

でも、JRが通っていないからかいまいち垢ぬけていないのよね。あのあたり。例えば、年中饐えた匂い(マジで臭い)のする浅草地下街(何でも日本最古の地下街らしい)は時代が止まってる。具体的には昭和。あのボロさとレトロさ、平成生まれでも分かる。昭和。

噂によると、あの地下街のどこかに忘れられた地下鉄浅草駅へ通じる通路があって、丑三つ時に訪れると、この世ならざる場所(あの世、異世界、過去未来何でも)へ行ける電車がやってくるらしい。気持ちは分かる。そのくらいあの場所は怪しい。昭和恐るべし。

隅田川沿岸


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ご存じの通り、墨東区は隅田川を中心とした地域で、隅田川沿いにも名所が多い。

まぁ、言うて一番有名なのは上流。浅草と本所・向島の間の区間。春になると両岸の桜並木が満開になって、毎年山ほどの花見客がそぞろ歩く姿が見られる。

でもぶっちゃけ、日本各地にあるソメイヨシノだらけの桜の名所と印象は変わらない。……まぁ「墨堤の桜」と言えば、上野のお山と並ぶ江戸の頃からの桜の名所だから、歴史的価値はあると思うけど。

あとは、何と行っても隅田川花火大会。とはいえ、東京のど真ん中の狭い場所で無理やりやるもんだから、地方の有名花火大会とくらべると、花火じたいはちっさい。そのぶん、技巧は凝らしているみたいだけど。

あと、江戸時代から続く歴史的価値。これこそが一番大切。……さっきからこればっか言ってる気がする。

で、ちょっと隅田川を下った本所界隈は「本所七不思議」の舞台としても知られている。今やあの辺は「東の港区」とも言われる羽振りのいい商業エリアで、怪談の「か」の字も見当たらないけど、隅田川沿岸だけは開発から、不自然に取り残されている。

一説によると、あの辺は「出る」かららしい。編集長曰く「怪異は水と深く関係している。水の流れが霊脈となって霊的なものを媒介すると考えられる」「昔、あの地域は隅田川から水を引いた水路が無数に走っていたので、多く怪異が発生していたのだろう」とか。

つまり、昔の水路がほぼ全滅した今、隅田川沿岸で集中的に「霊的なモノ」が出るようになったみたい。

実際、アタシも昔見たことがある。お花見に行ったとき、桜の木の下に佇んでいる白い和服の女の子(あれってたぶん死に装束。三角巾はなかったけど)を見たことがある。その姿は、すこし透き通っていて、私に何か言いたそうにしてた。……自分でも聞いたことない悲鳴が出ました。速攻逃げました。

その後、件の桜の木を何度か、怖いもの見たさで見に行ったりもしたけど、それっきり彼女の姿は見かけない。桜の木の下には死体が埋まってるとかいうけど、東京都の観光地のど真ん中で……まさか、ねぇ。

そんな怖い話はともかく、浅草側の駒形橋のあたりには、日本一の玩具メーカー、コマンドウ(語源は、駒形橋のそばにある「駒形堂」を江戸弁で言った時の語感。某映画じゃない)の本社があったりする。

大ヒット玩具「ようかいっち」とか、コンシューマゲーム機「スーパーコマンドウ」とか、聞いたことあるでしょ? あのへんは昔から玩具会社や問屋が多い地域で、子供の頃はよく通い詰めたものだわ。

問屋さんで花火をしこたま買って、ほぐして火薬集めて、スーパー花火という名の単なる爆弾をこしらえたり……え? やったことない?

“名無しの幽霊”ゆうこ(仮)
隅田公園
幽霊(虚構体?/観測者)
性別:
年齢:??
「おねがい。怖いお化けをやっつけて。じゃないと大変なことになっちゃう。私がみえる貴方にしか頼めないの」

この記憶喪失の少女の幽霊は、自分がどこの何者なのかを、ずっと探し続けている。おぼろげながら「怖いお化けに殺された」「優しい家族がいた」という印象だけはもっているようだけど、その時期も場所も判然としない。
彼女にできることは、隅田公園の桜の木の下に立って、いつの日か「家族」が来るのを待つことだけだ。家族が来れば記憶が戻ると。そう信じて。
オレ個人としては、その日は来ないと思っている。おそらくこの世界に幽霊(人間の魂か何かがこの世に留まったモノ)は存在しない。彼女は虚構体。何かの虚構の残滓だ。昔人間だった頃なんてない。最初から“殺された少女の幽霊”という役回りだったんだろう。
それでも彼女は、公園を通る家族を眩しそうに見ている。そして、虚構侵蝕の気配を感じると、観測者に「おねがい」をする。怖いお化けに殺されて家族を失う子を作ってほしくないと。

上野地区


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さてさて、お次は上野地区。浅草からは歩いて30分くらい。浅草から銀座線に乗れば5分くらい。

墨東区最大のターミナル駅、上野駅と、隣接する上野公園(上野恩賜公園)を中心とした観光地だ。

昔は映画館がいっぱいあったんだけど、老朽化していたこともあって、再開発でほぼなくなっちゃった。

上野公園内には博物館や美術館が凄い勢いで密集していて、すぐ近くには芸大(東京芸術大学。国立の超名門)があったりする、芸術と文化の薫り高いアカデミックな雰囲気が感じられる場所でもある。

とはいえパンダには負ける。上野動物園(上野恩賜動物園)は数年に一度はパンダが生まれて盛り上がる。

そうそう。桜の名所としても忘れちゃいけない。江戸時代からの名所っていうだけじゃなくて、よく見るとソメイヨシノ以外にもいろいろな品種が植わってて、桜の博物館めいた側面もあったりする。

でも、そんな文化と芸術のふいんき(なぜか変換できない)も、南に下ると一気に下町っぽく……つまり俗っぽくなる。有名なアメヤ横丁や、湯島のほうに伸びる仲町通りのあたりは、完璧に歓楽街だ。上野でオールするときは、アメ横から仲町に流れて、酔った頭で早朝の上野公園をフラつくのもなかなかオツなもの。

西郷さんのところまであがれば、朝焼けの上野が一望できて、目覚め始めた街の気配に、妙に清々しい気分になる……こともあるけど、多分お酒のせい。

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東叡山 寛永寺 とうえいざん かんえいじ

さて、普通は上野を語るには、パンダと博物館・美術館、アメ横だけ覚えていればいいと思っていたなら大間違い。寛永寺を忘れてちゃ片手落ちってもの。

寛永寺は江戸時代に徳川幕府の肝いりで創建されたお寺で、今でこそ上野公園の北にひっそり、建物がいくつかあるだけだけど、実は今のだだっ広い上野公園は、もともと全部まるっと寛永寺の敷地。

今でも上野公園内に残る「ご利益ありそうな建物(東照宮に五重塔、不忍池の弁天堂、清水観音堂、上野大仏などなど)」は全部、寛永寺の伽藍だった。

そもそも、江戸城の鬼門の方角を守護する寺院として創建されたって時点で強いし、初代住職は徳川家康の側近(あるいは黒幕)として活躍した、あの天海僧正(正体は明智光秀説あり)が務めた時点で熱すぎる。東叡山という山号も「東の比叡山(延暦寺)」という意味だっていうんだから、中二心がくすぐられる。

もっとも、江戸期はブイブイ言わせた寛永寺も、幕末の上野戦争でほとんどの伽藍を焼失して失速。敷地を公園として提供して今に至る、と。盛者必衰って感じ。

東京国立博物館

東京国立博物館、通称トーハクの外観は、誰もが「あっ。ここ知ってる!」ってなると思う。ドラマのロケとかでよく使われるからね。本館エントランスも、めちゃくちゃドラマで使われてる。お屋敷とか、宮殿とかの場面では大体あそこ。敷地の中に散らばる別館も、なにかと何かの聖地になっているんで、そういうのまとめたサイトとか探してみるのも一興かも。

とどのつまり、それだけ趣のある建物だってこと。

ちなみに、上野に博物館や美術館が集中しているのは東京国立博物館の初代館長の「上野恩賜公園を大博物館エリアとする構想」によるもの。実に意識が高い。

収蔵品は100を超える国宝と1000に迫る重要文化財をはじめ、国内外のさまざまな美術品や工芸品、考古学資料を網羅している。

そうそう。最近は常設展も大盛況。なにせ空前の刀剣ブーム。刀剣目当てに訪れる女子がわんさかいる。

特に人気なのが三日月宗近と童子切安綱の国宝2振り。三日月宗近こと、宗爺本人曰く「天下五剣」に数えられる名刀とのこと。事実だけどさ。刀本人の口から自慢げに語られて、素直に感心したら負けだ。

宗爺は、基本ひょうきんなボケジジイで、子供の頃迷子になったときにお世話になった。ほんと、子供をあやすのはうまい。親戚のお爺ちゃんみたいな感じ。

一方の童子切安綱(宗爺曰くやっさん。本人はそう呼ばれるのを嫌がってる)のほうは、こう……鬼軍曹というか鬼武者というか、そんな感じ。迷子になってベソかいてる女児に「泣くな」「黙れ」「女々しい」とか怒鳴りつければ、そりゃ大泣きしますって。

トーハクにはこの2人以外にも、付喪神になった名物の展示物がちらほらいる。わりと国宝が多いかな。

宗爺 むねじい 三日月宗近 みかづきむねちか
東京国立博物館
国宝(虚構体/観測者)
性別:男性格
年齢:約1000歳
「儂は三日月宗近。天下五剣の一振りにて最も美しい太刀じゃ。……ところで学芸員さん。手入れはまだかのぅ」

三日月宗近の蘊蓄については、オレはよく知らない。各自適当に調べとけ。
オレが知っているのは、こいつが付喪神の虚構体で、ボケジジイだってことだ。本人曰く、数百年前から意志があった(インテリジェンスソードってやつ)ので時の権力者から寵愛された歴史の生き証人だそうだけど、オレはあのジジイの法螺だと思っている。
実際、奴の語るサービス満点の昔話は来場者からは好評らしいが、研究者の間では「明らかに盛っている」「時系列がおかしい」「前の話と矛盾している」ことで有名で、歴史的な資料としてはアテにされていないって話。
つまりあのジジイは、博物館で余生を満喫しているだけのボンクラだ。
……と、オレは確信してる。けど、ほかの観測者によれば、危機が迫るとシャンとして、出鱈目も言わず、観測者に自分を持たせて戦うらしい。
当然、オレは信じていない。

国立科学博物館

国立科学博物館、通称かはくの外観は、誰もが「あっ。ここ知って……」てか、実物大のシロナガスクジラは一度見たら忘れない、でかい! 説明不要!

昔からこのクジラを見るだけで、テンションアゲアゲになる。だって、夏になれば恐竜の企画展やってるし、ほかにも昆虫、深海生物、宝石、ミイラに宇宙、菌類、果てはポ〇モンとコラボまで、昔も今も子供の心を掴んで離さない。アタシの中の小学生男子(3,4年生くらい)が、夏になると「なるみー! かはく行こうぜー!」と騒ぎ出す。

そして、かはくには少年たちの心を掴んで離さない魅力がもうひとつある。それは……夜になると、かはくの常設展示が動き出すのだ!

かはくの名物展示でもあるニホンオオカミ、ハチ公、ジロ(南極物語のタロじゃないほう)の剥製はもちろん、恐竜の化石に模型、人形、果ては干し首やミイラ(子供の頃、軽くトラウマになった)まで。さまざまなものが動くさまは圧巻。

警備と保安上の観点から、限られた期間に限られた人数(抽選の倍率エグい)にしか公開されないのが残念だけど、まぁ、仕方ないよね。

あと、トーハクの宗爺たちもそうだけど、展示品たちは自分にまつわる事に詳しい。恐竜の化石の行動を見れば生態のヒントになったりするし、ミイラは彼が生きた時代の証人。なので、しょっちゅう研究者が夜の博物館を訪れているみたい。

もし、展示品たちに会ったり話を聞きたければ、偶然この現象を発見して、展示品たちの信頼を得た博物館の警備員のおじさん(年の離れた、アタシの飲み友達)を紹介してあげられるかも。

国立西洋美術館

はい。この建物は世界遺産です。上野のほかの文化財とくらべると、ぶっちゃけ華のない、地味な建物がいきなり世界遺産とか言われたところで、いまいちピンときてないけど……なったもんは仕方ない。

もともとこの建物は“松方コレクション”と呼ばれる、実業家松方幸次郎氏が収集した近代の絵画や彫刻を収蔵するために作られた美術館で、有名な作品としては、松方氏がモネから直接譲り受けた「睡蓮」「舟遊び」や、ロダンの「地獄の門」「考える人」など。

もっとも、美術館が建ったのは戦後。松方氏が亡くなった後のこと。彼は自分の夢(日本に本格的な西洋美術館を作る)が結実するのを見ることはなかった。

松方氏が私財をなげうって美術館建設を決意した志とか、世界恐慌と第二次大戦によって、松方氏とコレクションを襲った数々の受難とか、かなりドラマチックなので各自ヴァスって勉強しておくよーに。

そして、実は松方コレクションには異説が存在する。

確かに松方コレクションは、西洋の近代美術を中心に収集されていたけれど、松方氏はそれと並行して、浮世絵。特に葛飾北斎の作品を熱心に収集したという。

普通に考えれば、松方氏は北斎のファンだったというあたりが無難な落としどころなんだけど……編集長曰く「北斎の描いた風景画には、徳川埋蔵金のヒント。つまりホクサイ・コードが隠されているんだよ!」とのこと。徳川埋蔵金って。いつの時代の話よ。

とはいえ、知り合いのトーマス教授(東京芸大のトーマス・ハンク・川村教授。北斎の子孫らしい)も、このホクサイ・コードを追ってるらしくって……なに。この話、ガチのやつなの?

“北斎の末裔”トーマス・ H ハンク ・川村
東京芸術大学
美術史教授(非観測者)
性別:
年齢:48歳
「私のママが言っていたんだ。人生はおもちゃ箱みたいなものだって。なら、遊びつくさなきゃ損じゃないか!」

トーマス・H・川村氏は美術史の権威で、実は葛飾北斎の遠い子孫(川村は北斎の本姓)だという。そのわりに、本人の画力は画伯級。ド下手らしい。
好奇心と知識欲、行動力の塊のような人物で、大学時代はアメフトの選手として活躍し、米軍に入隊後は仲間を敵地から救出した功績で知られ、無人島に漂着するが無事生還するなど、伝説的なエピソードには事欠かない。
特に、美術品関連の謎には目がなく、過去にさまざまな歴史的な謎を解き明かしている。ちょっと前にレオナルド・ダ・ヴィンチの作品に仕込まれた暗号を解読したことで世界的に有名だ。
今は、国立西洋美術館に収蔵されている徳川埋蔵金のヒントとかいう「松方ホクサイコレクション」を研究してるらしい。
もし、曰くありげな芸術品や発掘品などについて話が聞きたければ、協力を求めてみるのもいいかもしれないな。
虚構タイムズVol.444
ホクサイ・コードを追え!

君たちがよく知る徳川埋蔵金伝説。それは幕末。江戸幕府が大政奉還に際し、密かに埋蔵したとされる幕府再興のための軍資金だとされている。
しかし、美術品に隠された数々の謎を解き明かしてきた権威、トーマス・ハンク・川村教授によると、埋蔵金計画は幕末以前から進められていたという。従来の埋蔵金伝説は、氷山の一角にすぎないのだ。
埋蔵金計画を推進したのは、江戸時代末期に代々大老職を担った井伊家だ。計画は数十年にわたり秘密裏に進められ、日本各地に今も埋蔵金が隠されている。
だが計画の詳細は、桜田門外の変で井伊直弼が暗殺されたことで失われてしまった可能性が高い。
……埋蔵金の手掛かりは失われ、二度と見つけることは叶わないのか? ……ここにひとつの光明がある。
江戸末期。日本各地の土地を詳細に描いた浮世絵師がいた。その名は川村鉄蔵。またの名を葛飾北斎。
北斎の子孫でもある川村教授によると、北斎は土地に埋蔵金が隠された違和感を、天才的な感性で感じ取っており、冨嶽三十六景などの風景画の中に、手がかり“ホクサイ・コード”を描いているというのだ。
証拠はこれだけではない。鍵を握っているのはフィリップ・シーボルトという人物だ。
彼は詳細な日本地図(伊能忠敬らが制作した伊能図。当時は国防の観点から国外への持ち出し禁止)の入手を試みた“シーボルト事件”を引き起こした男であり、北斎に接触したという記録が残っている。
北斎と、詳細な日本地図。これは偶然の一致ではない。おそらくシーボルトはオランダのスパイであり、黄金の国ジパングの財宝。つまり埋蔵金を狙っていたのだ。
川村教授は真実を証明するため、ホクサイ・コードの記されたオリジナルの浮世絵を所蔵する国立西洋美術館に閲覧を求めているが、許可が下りないという。
巨大な陰謀の臭いがする。フリー・メイソンか。あるいはイルミナティか。虚構タイムズでは引き続き、ホクサイ・コードを巡る謎を追い続ける。続報を待て。

K林(仮)

上野東照宮

東照宮と言えば日光にしかないと思ってる人もいると思うけど、ところがぎっちょん。上野にもあります。

てゆーか、日本中にある。そも、東照宮の定義って「東照大権現(超凄い神様。その正体はなんと徳川家康その人)を祀っている神社」なので、江戸時代には全国に700くらいあったみたい。

この上野東照宮、日光までお参りに行けない江戸の人のために豪華に作られたとかで、ほんと絢爛。小学校で行った日光東照宮のミニチュア版って感じ。

現在の建物は三社様と同じ家光公が改築したもので、寛永寺が灰燼に帰した上野戦争や、関東大震災、東京大空襲の時も運良く燃えず、当時のまま残ってる。

だもんで、お参りすると強運を授かるとか、家康のように出世、勝利、健康長寿のご利益があるとか。

あと、上野東照宮には狸が神として祀られている。

これは、以上のご利益を踏まえたうえで「他を抜きんでる」に通じるかららしい。……いま「ダジャレじゃん」とか思ったでしょ。ちがうよ。言霊だよ、言霊。

だからというわけじゃないだろうけど、上野東照宮の境内には、リアル狸(野生)が住み着いている。

ふてぶてしいオスの狸で、愛称は「イエヤスサマ」。

参拝者や観光客、境内の的屋のおっちゃんのアイドル……というか、東照大権現のご眷属扱いになってて、軽く信仰を集めている。うまいことやったな。狸。

そして眷属様なもんで傍若無人。よく人間に食べ物(お供え物)を要求してくる。無視すると奪う。

子供の頃、買ってもらったりんご飴を奪われた恨みは一生忘れない。狸の寿命から考えると先代か先々代の別狸だろうけど……本当に代替わりしてるのかしら。全然印象変わらない。実は妖怪狸だったりしない?

そうか、きっとあの狸は虚構侵蝕なんだよ!

東照大権現 とうしょうだいごんげん ” イエヤスサマ
東照宮
神の化身(虚構体/観測者)
性別:男性格
年齢:479歳
「儂に助力を頼むなら、何か必要じゃと思わぬか? ……なに、江戸の危機? むむぅ。ならばやむなしか」

上野東照宮に棲む野生の狸、通称イエヤスサマは、観光客に愛想を振りまき、隙あらばエサを貰おうと(子供からは、奪おうと)する性悪狸だ。
そしてその実態は、困ったことに東照大権現(神になった徳川家康)の化身。つまり東照宮で祀られている神本人で、観測者にしか正体を明かさない。
その力は本物で、潜在能力を引き出す、カリスマ性を与えるなど、徳川家康っぽいご利益を授けることができる。
問題はその性格。一言で言えば強欲なタヌキ親父だ。神のくせに俗っぽい。
好物の天ぷらを持って行けば、力を借りられるかもしれないが、あの狸は気分屋だ。アテにしないほうがいい。
でも腐っても神様。「東照大権現として江戸(東京)を護る神」としての自覚はあるらしい。
虚構侵蝕で東京(江戸)に危機が迫っているなら、観測者に解決を依頼したり、力を貸すだろう。たぶん。

アメヤ横丁

アメヤ横丁の名前の由来は、いろいろある。

曰く、戦後の闇市だった頃に飴屋が多かったからとか、アメリカ軍の横流し品が売ってたからとか、その両方とか。知られていない第3の真実があるとか。

もともと戦後の闇市が発祥なだけあって、いい意味で汚くてボロくて小さなお店がJRの高架下にずらっと並んでる。エキゾチックな雰囲気が観光地として人気みたい。年末年始とか、ヒくくらい人がいる。

観光地ではあるけど、わりとお値段はお手頃。肉や魚から、アジアンな怪しい食材、ケバブ屋、ガチめの中華料理屋、韓国で流行のファーストフード、チープな輸入雑貨やミリタリー用品までが詰め込まれた、おもちゃ箱みたいなところは確かに魅力的。

あと、せっかく行くならもつ焼き屋で安酒を一杯ひっかけるのもおすすめかな。もつ焼き大統領とか。

そうそう。あとアメ横には、妙な噂がある。

何でも高架の真下。狭くてマニアックな店がひしめくアメ横プラザのどこかに、地下へと続く階段があって……そこを降りると、非合法なブツから怪しげなオカルトグッズまで何でも手に入る、アメ横地下街とかいう場所があるとか、ないとか。

もともとは帝国陸軍の地下秘密基地だったとか、違うとか。ただし、扱っている商品がやばすぎて値段のケタが2つ3つ違うとか。

アメ横在住の友達、万纏ちゃんに聞いてみたところ、はぐらかされたうえに「もし、階段見つけても行かないほうがいいッスよ。絶対危ないところッス」とか言ってたけど……いや、絶対なんか知ってるなあいつ。

虚構侵蝕の匂いがする。ちょっと感覚が掴めてきたかも。週末大統領で呑むから、酔わせて聞き出しちゃる。

アメ横地下街と 卍屋 よろずや

というわけで、しこたま呑ませて聞き出してきました。ちょっと飲ませすぎて情報が断片的だけど。

あくまで噂レベルだけど、アメ横地下街には卍屋とかいう、その気になれば大量破壊兵器から世界最大のダイヤモンド、ダヴィンチの作品まで、何でも手に入れることのできる所があるらしい。

ウソくせー。……そこまで行くと、さすがにマユツバ。そしたら纏ちゃんてばムキになって「私こそが卍屋の店主らんッスよー。ちょっと前にじーちゃんの跡継いでぇー」とか妄言吐きだしたので、さすがに家まで送って行った。……そういえばあいつ、なにげに羽振りいいけど仕事何してんだろ?

アメ横界隈で雑貨屋みたいな店やってるところまでは聞いてるけど……まいっか。また大統領に誘おっと。

“卍屋店主” 万纏 よろず・まとい
アメ横地下街
卍屋店主(観測者)
性別:
年齢:22歳
「まいど! 今日は何をお探しで? お代さえ頂ければ、ウチがグレムリンだって仕入れてみせるッスよ~」

万纏はアメ横地下街にある観測者向けの店、卍屋の店主だ。アメ横地下街の生ける伝説だった先代店主のじーさんからすこし前に店を継いだばかり。
店には、最新科学を駆使した武器や薬品から、呪具や魔導書、UMAのミイラに邪神像まで、家が買えるほどの価値がある物がひしめいている。
だが、纏はそれら「ウチのコレクション」を気に入った客にしか売ろうとしない。さらに守銭奴。とはいえ金を取るのが野暮だと思った時は「取れるところから取れればいいだけっス」と、タダで譲ったり貸したりもする。
店にない物でも、ネットワークと商才で必ず手に入れてくる。商品の調達のために観測者を雇うこともある。
雇われるといえば、纏が興味本位で仕入れた厄介な代物の後始末を依頼されたこともあった。二度とごめんだ。
あとアメ横地下街はアンカーだ。虚構侵蝕中でも普通に買い物ができる。

神田地区


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上野地区から、ぐぐーっと広小路を南下して行くと、オタクの聖地、秋葉原(一部、まだギリ電気街と主張する原理主義者もいる)。そこから本郷台地をちょっと登ると神田明神さんがでーんっと居を構えている。

ちょっと前に某有名アニメの聖地になったんで、知っている人もいるかも。兄ちゃんがハマってたから横で観てたけど……うん。アタシは嫌いじゃないよ。

そんな神田明神さん。さっきもちらっと言ったけど、ただの神社じゃあない。なにせ“江戸総鎮守”。

江戸を襲う、こう。なんか悪いものを全部鎮めるみたいな凄い神社なわけ。どんだけ凄いかっていうと、まず御祭神がすごい。3柱いらっしゃって、神田祭では彼らの化身であるお神輿が出るんだけど、そのメンバーが、七福神の大黒様&恵比須様with平将門命。

いや、最初の2人は分かるとしても、平将門って! 

賢明な虚構タイムズの読者の皆様はご存じの通り(分からない人はヴァスろう)将門公といえば、数々の伝説を残した日本三大怨霊の1人。やばい。

ちなみに、すぐ近くの湯島天満宮の天神様は菅原道真公のことで、こっちも日本三大怨霊の一角。あとマイナーだけど、墨東ドームシティの近くには崇徳天皇を祀った金毘羅様もあるので、実は日本三大怨霊をコンプリートしてる。……アタシが悪の陰陽師とかだったら、何か企んじゃうね。これは。

とまれ、そんな将門公をも神として祀っちゃってるっていうんだから、そりゃあ江戸総鎮守も納得でしょ。有名な将門の首塚も、神田明神さんの管轄だし。

それにくらべたら、浅草の三社様なんか、地元の漁師兄弟with物知りおじさんの3人だからね。格の違いは歴然。ま、祭の盛りあがりでは負けてないけど!

話は盛大に脱線したけど、神田地区とは、そんなハンパない神田明神さんをセンターにしたアイドルユニットみたいな娯楽の街だ。

オタクの聖地秋葉原はもちろん、楽器と音楽の街お茶の水。新刊から古本まで物理本なら何でも揃う本の街、神保町の神田古書店街。そして墨東ドームシティなどなど、遊び場には困らない。

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秋葉原電気街

実は、神田地区に関してはアタシより兄ちゃんのほうがはるかに詳しい。

今でこそ実家の銭湯を継ぐ方向で手伝ってるけど、あれの本質は中二病でオタクな趣味に生きる変人(虚構タイムズを全号コンプしている時点でヤバみが深い)なのでしょっちゅう出かけていく。

当然、秋葉原は彼の庭。

メイド喫茶に入り浸ったり、オタク仲間(たぶん全員男)とつるんだり、怪しい電子部品やパソコンパーツ(いまだにあるところには大量にあるらしい)を買いこんでは、部屋で怪しげな機械を組み立てている。

本人曰く「観測者のひとりとして(※自称。中二病も大概にしろっての)虚構侵蝕を解決するために必要な機材」だそうだけど……うん、まぁ、ね。

そんなだからもちろん、浮いた噂は皆無。父さんと母さんは、いろいろあきらめている。かわりに最近は、アタシへの無言の圧力が強い。こっち見んな!

あと、少し前にVR機材も大量に運び込んでいた。あれか兄ちゃん。バーチャルな存在になるつもりか。美少女か。受肉するつもりか。

……てゆーか、兄ちゃんは最近VER-Tube(VER-TH内の動画配信サービス)で活動中の自称観測者系美少女Vtuber宇津呂ミルコにめちゃくちゃハマってる。

配信はいつもリアタイ。部屋から大音量でミルコの萌えボイス(萌えって死語だっけ)が聞こえてくる。

ミルコの虚構侵蝕関連の配信は、大抵が「お前は何を言っているんだ」って感じだけど「観測者じゃない一般人が観測者の話を聞いたらこんな感じかもしれない」っていう凄味はある。意外と人気もある。

ミルコは秋葉原を拠点にしているという設定(そも、バーチャルなんで場所関係ない)なので、秋葉原には彼女(たぶん中の人は、ソフトでボイチェンしたおじさんだと思うけど)のカフェとかがあるみたい。

そこでは、自称観測者のミルコを中心に、オタクたちが虚構侵蝕に対抗するために日夜活動しているとか……やばい。自分で言ってて、ぞわっとした。中二病とかいうチャチなもんじゃ断じてない、もっと恐ろしいカルト的な何かの片鱗を味わったわ。

そして兄ちゃん。多分そこ出入りしてるな。……頼むから、お縄を頂戴するようなことはしないでね。

“虚構侵蝕系Vtuber”宇津呂ミルコ
VER-Tube
ネットアイドル(観測者)
性別:女の子(魂)
年齢:17歳(固定)
「ピンポンパーン♪ 秋葉原で虚構侵蝕が発生中です。観測者じゃないお友達は、ミルコの指示で避難してね♪」

VER-Tubeで最近デビューした、バーチャルVtuber宇津呂ミルコは、虚構侵蝕に関する情報をリアルタイムで配信するネットアイドルだ。秋葉原に運営とファンが集まるカフェがあり、虚構侵蝕の情報がやりとりされている。
過去に起こった虚構侵蝕の時も、何度かミルコの配信が役に立ったことがある。中身は間違いなく観測者だ。
そして、あらかじめ言っておく。こいつのリアルはおっさんだ。まぁ、ネットで指摘しても、ミルコのファンから「お前は何を言っているんだ」「その程度のことなど分かったうえで楽しんでおるのだが」と、あしらわれるけど。
その正体は不明。でも浅草に住んでいる(秋葉原に住んでいる設定なのに、普通に矛盾している)ことと、リアル妹がいるらしいことは分かっている。
ミルコとその仲間(運営)は全員観測者らしい。虚構の収束にネットの力を借りたいときは、頼りになるかもね。

墨東ドームシティ

真っ赤なヒーローが「墨東ドームシティで、僕と握手!」というテレビCMに心をときめかせたことのない日本の子供はいないだろう……って最近まで信じていた。けどこの間、地方出身の友人に「そのCM関東ローカル」と言われて愕然。マジか。

ともあれ、墨東ドームシティは墨東区最大の娯楽施設だ。名前の由来でもある墨東ドーム球場は野球から有名アーティストのライブまで、墨東区の大規模イベント会場としての地位をほしいままにしている。

なんか、地下には秘密の格闘場があるとかいう噂もあるけど、すぐ近くのプロレスの聖地、後楽園ホールと間違えているんじゃあないかしら。

そしてもちろん、CMのヒーローのいる遊園地、墨東ドームシティアトラクションズ(昔は後楽園遊園地って言ってた)も人気で、休日は家族連れで大盛況。

昔はよく、兄ちゃんに連れて行ってもらったっけ。そして必ずヒーローショーを観た。兄ちゃんはアタシの付き添い……ってフリしてたけど、明らかに自分が行きたかっただけ。あの特オタめ。ま、楽しかったけど。

そのヒーローショー。アタシが子供の頃は露天でやってた(だから、雨の日は中止)んだけど、今は室内劇場に変更になって、最新ヒーローのショーをやっているらしい。さすがに大人が独りで行くのは気が引けすぎて行っていないけど。兄ちゃんは行ってる。

でも、アタシの子供の頃の推し、アクションレッド様(映画戦隊シネマスターズのリーダー。アタシの初恋の人)はもう舞台に立つこともないし、最近のヒーローもそんな詳しくないし、行くモチベないんだけどね。……と、この間兄ちゃんに愚痴ったんですよ。

そしたら兄ちゃん「アクションレッドなら、まれに見かけるぞ」って。ちょっと、なにそれ。マ?

もっとも、そこからは兄ちゃんの、なんていうか。“虚構侵蝕から世界を護る観測者”としての御高説を垂れ流される羽目になったので、さすがに辟易して逃げ出した。ほんとやばいな、あの兄。

何でも、アクションレッド様は虚構体とかいう、フィクションから生まれた存在で、テレビの中のヒーローそのもの。そして、墨東ドームシティで起こる虚構侵蝕(主に特撮関

連の虚構侵蝕が多めとか)を元に戻すため、兄ちゃんたちと何度も一緒に戦っている……って、なんそれ。頭がどうにかなりそう。編集長ならともかく、肉親からこういう話聞くときっつい。

“映画の戦士”アクションレッド
墨東ドームシティ
スーツアクター(虚構体/観測者)
性別:
年齢:外見25歳
「映画支配委員会! お前らの野望は、俺たちが阻んでみせる。いくぞみんな! 映画戦隊、シネマスターズ!」

アクションレッドは昔の特撮、映画戦隊シネマスターズから生まれた虚構体だ。映画戦隊シネマスターズといえば、物心ついた頃にやっていた特撮番組だ。この間実家の倉庫から玩具が出てきた……好きだったんだな、オレ。
設定によると、この世界を映画の世界に改変して支配しようとする(どこかで聞いた話)映画支配委員会と戦うアクションレッド、サスペンスブルー、コメディイエロー、ホラーブラック、ラブロマピンクの5人のヒーローだ。
でも、虚構体として存在しているのはレッドだけだ。戦いの時はフィクションパワーで仲間を呼べるみたいだが、それだけ。彼は普段、烈道殺陣(れつどうたて)と名乗って、墨東ドームシティのヒーローショーでスーツアクターをしている。
彼が今の状況をどう考えているかは分からないが、正義のために虚構と戦うことを自分に課しているようだね。

本所・向島地区


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本所・向島地区は、浅草地区から見て隅田川の川向こう。東岸に広がる地域だ。浅草駅から見ると、吾妻橋の対岸。う〇こビルから向こうは全部そう。

あのへんのビル群。実は、墨東区役所もありーの、大手ビール会社の本社ビル(黄色いあれ。ビールジョッキがモチーフらしい)もありーの、たぶんタワーマンションの先駆けになった公団タワー住宅ありーのと、実はすごい先進的な建物群だったりする。

そして、その試みが図に当たったことで、今まで正直パッとしなかった本所・向島地区が大発展を遂げることになったみたい。父さんが言うには、ここ四半世紀でボコボコと高層ビルができて、大企業がぽこじゃか本社建てて、高級マンションがニョキニョキ生えて、とどめに墨東スカイツリーまで建って。あっという間に日本を代表する一大商業地区になったという。

誰が言ったか「東の港区」。

結果、経済特化のマネーゲームな地区になりそうなもの。まぁ、向島のほうは実際そんな感じなんだけど、本所のあたりは昔から技術力のある中小の工場が多い地区でもあって、そこに可能性を感じた企業がジャブジャブお金を注ぎ込んで、山ほどベンチャー企業が参入した結果、ロボットやらAIやら、果ては宇宙開発まで手がける最先端技術の見本市みたいになっている。

あのへん行くと、AI運転のトラックや、荷物配達ドローン、強化外骨格をつけた工場の職人さん、そのものズバリのロボットが闊歩してて。なんかこう、未来。

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墨東スカイツリー

吾妻橋側から見ると、〇んこビル群と区役所のちょうど間に見えるのが、628m(元ネタは浅草寺が創建された西暦628年)の高さを誇る世界一の自立式電波塔、墨東スカイツリー。アタシが物心つく前から建設計画があったらしい。

兄ちゃん曰く「ネタかと思ってたらマジで建設始まってビビった」とのこと。分かる。できた直後は現実感なかった。ふと上を見ると、下町の木造住宅の屋根瓦越しに、あんなSFなストラクチャーが見えるの、合成映像かCGとしか思えない。

その無駄なSF度の高さから、宇宙に向けてすごいビームを放てるとか、地脈が乱れて大地震が起こるとか、地下を含めると長さが666mになるとか、歌川国芳の浮世絵の中で建設が予言されていたとか、よく分かんないオカルトな噂が飛び交ったものだけど、まぁ、下町じゃよくある話。基本村社会なんで、新しい見慣れないものには、絶対悪評が立つのよね。

VER-TH本社

そしてそして皆さんご存じ。気がついたら世界一の巨大企業になっていた日本のインターネット企業、VER-THの本社がこちら。墨東区民の誇りです。高さ100mちょいとサイズひかえめだけど、20年くらい前に建てられたときは十分でかかった記憶がある。

でもまぁ、その見るからに「未来でございます」みたいなイカしたデザインのインパクトは健在。何でも、エネルギー効率とか拡張性とか耐震性を突き詰めてAIがデザインしたそうで。当時話題になったみたい。

社会科見学で社内見学ツアー行ったことあるけど、あの建物の中、ほぼ無人! 案内役もロボットでSFの世界。でも、内部のほとんどが機密だらけの研究施設で入室不可。廊下とロボットと、要所要所で出てくる松田論社長の解説ホログラムしか印象に残ってない。

まぁ、インターネット企業だし。自動車とか作ってるわけでもなし。分かりやすいモノなんてないよね。

でも最近、分かりやすいことを始めた。

なんと、宇宙事業に参入したのだ。お金をジャブジャブ注ぎ込んで、本所の中小ベンチャーに開発させた独自技術を、同じく本所の技術力のある中小の工場に生産させて、国産のリアル“下町ロケット”を完成させちゃった。ワーオ。ものづくり大国ニッポン万歳。

おまけに、ロケット用の実験場まで作る気合の入れっぷり。打ち上げ実験の様子は、ちょっとした地元の名物になっている。あの企業、どこまで行くんだろ。

金成高井ビル かなりたかい

向島にある高層ツインタワー、金成高井ビルは別名「東のヒルズ」と呼ばれる巨大オフィスビルだ。

名前は、地元の大富豪の金成さんと高井さんがタッグを組んで、最高のビルを作ったことに由来する。

中には劇場やイベントホール、お洒落なショッピングモールとかも入っていて、まんま六本木ヒルズのパク……リスペクトした作り。

また、オフィスのテナントには、株式上場企業の本社が星の数ほど入っていて、テナント料は莫大。でも万全のセキュリティで守られているから安心。

……のはずなんだけど、これらの企業が、テロリストや知能犯の標的になって占拠されたり、設計ミスで大火災が起きることがよくある。

アタシもクリスマスのパーティーに呼ばれて行って、テロリストの人質になったことがある。そのときは、墨東署の刑事ブルース・長谷川さん(別居中の家族に会いに来て、巻きこまれたらしい)に協力して何とか窮地を脱した。いや、ほんと、死ぬかと思った。

でも、そんなことがあってもビルの評判が傷つくことはない。なんでだろ。ま、そういうモノなんでしょ。

編集長曰く「アクション映画の虚構侵蝕の舞台なんだよ!」とのことだけど、はは。さすがに映画の観すぎ。

“不幸刑事”ブルース・長谷川
墨東警察西分署
重犯罪課刑事(侵蝕者/非観測者)
性別:
年齢:40歳
「かみさんと娘に会いにきただけなのに、なんでこんな目に。チキショウ! 今日の俺は世界一ツイてないぜ!」

墨東警察西分署。そこに設置された重犯罪課は、重犯罪に限り重火器や武装ヘリの使用を認められた特殊な課で、通称“西部課”と呼ばれ、港湾地区での事件の解決に当たることが多い。
そこに所属するブルース・長谷川刑事は、鬼平こと長谷川平蔵の子孫だ。
しかし、彼の特異な部分はそこじゃない。彼は特殊な体質の持ち主だ。
彼には別居中の妻と娘がいるんだけど、妻と娘と会おうとすると、必ずテロ事件や知能犯の犯罪にでくわす。
……正確に言うと、そういった「映画みたいな犯罪の虚構侵蝕」の現場に、なぜかいつも、偶然いることが多い。
そして毎回、彼自身は観測者じゃないのに、観測者と一緒に虚構の収束のため(あと、囚われたりした妻と娘を助けるため)戦うことになる。
そして、彼はほぼ不死身だ。そういうフィクションパワーを持っている。
……頼もしいのは、間違いない。

墨東大学病院

そういえば、ちょっと前にアタシが急性の難病を患った話はしたっけ。世界的にも症例の少ない奇病で、まず助からないってお医者さんに言われたときは、思い余ってエンディングノートをネットで買ったりした。

でもそのとき、奇跡が起きたの。

墨東区最大の総合病院、墨東大学病院に入院したアタシを担当したのが、嘱託で病院にいた女医さん、江楠・K・仁子さんで、彼女こそ“ブラッククイーン(いつも黒ずくめだから?)”の異名を持つ天才外科医(内科とかも一通りいけるみたい)だったのだ。

その後いろいろあって、ドクター江楠の手術は成功。アタシの病気は完治した。いや、死ぬかと思った。

彼女、まだあそこで嘱託しているみたいだし、病気や怪我で困った時は力になってくれるかも。

“ブラッククイーン” 江楠・K・仁子 えくす・クロエ・じんこ
墨東大学病院
嘱託医師(侵蝕者/非観測者)
性別:
年齢:36歳
「私は医者だ。患者の命を救うことがすべてだ。ほかのことはどうでもいい。だが医院長、貴方は違うようだ」

墨東大学病院には、ゴッドハンドのスーパードクター、江楠・K・仁子がいる。いつも黒いコートをマントのように身に着けていることから“ブラッククイーン”と呼ばれている。
外科医として勤めてはいるものの、現代医学のほかの科の知識と技術を修めていて、どれも並みの医者を凌駕する。まさにスーパードクターだ。
しかし、人付き合いは苦手で、態度はぶっきらぼう。顔にある傷の威圧感も手伝って、病院内でも孤立している。
でも、彼女は人間が嫌いじゃない。ひとりの医者として患者を救うためには全力を尽くす。それが、病院の面子を潰すことになってもお構いなし。
彼女ほどの医者が嘱託医師として、いくつもの病院を渡り歩いているのは、そのあたりが原因だろうね。
ちなみに、彼女の医術はフィクションパワーだ。医者としての情熱が彼女に虚構の力を授けたのかもしれない。

リビングドーンモール

リビングドーンは、墨東区最大のショッピングモールだ。中には小さな遊園地やシネコン、複合遊戯施設まで完備していて、大体何でも売ってる。

なぜか突発的にゾンビの恰好をするとお得にお買い物ができる日があるので、ゾンビだらけになる。編集長は「それは、ゾンビの虚構侵蝕が起こっていた残滓なんだよ!」って言うけど……つまりアタシ、3回くらいゾンビになってたってこと? 何それこわっ。

両国地区


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両国と言えば相撲。両国国技館(江戸時代の相撲のメッカ、回向院もあるしね)というイメージがあるけど、以前の国技館は蔵前(隅田川の対岸)にあったみたい。でも、力士の取り組みで発生する衝撃波や、場内での空中戦の余波で老朽化が加速。40年くらい前に、幕内力士の取り組みで発生する衝撃にも耐えることのできる、今の両国国技館が完成した。

幕内力士の取り組みはほんとやばい。まさに場内を嵐が吹き荒れてる。取組中の土俵の上限定とはいえ、人間にあんなマンガみたいな戦いができるとか、さすがは神事。さすがは日本の国技。

と、相撲の話はともかく。両国は江戸時代からの町屋敷や大名屋敷の多くが、運良く残った地域でもある。

その代表格が地主の吉良さんのお屋敷、通称「吉良城」だったり、景観を活かして生まれたのが墨東撮影所(ボクウッド)だったりする。映画。特に時代劇好きはテンションアゲアゲ間違いなし。

あとは、アタシの母校にして幼小中高大一貫の巨大学園、私立墨東学園もある。

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吉良城(風雲閣)

吉良城。正式には風雲閣と呼ばれる城のようなお屋敷は、両国一帯の地主でもある名家、吉良家のお屋敷だ。

作られたのは江戸時代。元禄の頃という歴史的な建物で……なぜ、こんな屋敷になったのかを知らない日本人はまずいないだろう。そう。赤穂浪士の討ち入り。

詳細は省くけど、当時の吉良家の当主、吉良上野介を逆恨みした赤穂の不逞浪士(その頭目こそ奸智に長けた黒幕、大石内蔵助)が吉良邸を襲撃した事件だ。

結果は、ご存じの通り。赤穂の不逞浪士は、万全を期して作られた吉良城の防衛機構と、吉良家を慕う勇猛な家来たちの前に次々に倒れ、討ち果たされた。

吉良城の内部を見学できるんだけど、当時赤穂浪士対策で作られたという防御機構が再現されていて、見ごたえがある。空堀に渡された不安定な吊り橋や、ダミーの飛び石が配置された池などを越えないと、城の中心部にそびえる風雲閣に行けないようになっている。……確かに防衛には向いているけど暮らしにくそう。

でも、大石内蔵助たちはあれを越えて吉良さんに迫ったっていうんだから恐ろしい。まぁ、最後はあの有名な吉良城の階段落ちをして息絶えたわけだけど。

この件があってから、江戸での吉良家の株は急上昇。今でも続く、押しも押されぬ名家となったわけ。

今の当主は女性で、吉良義佳さん。お歳だけど、若い頃は墨東一ともてはやされた美女だったとか。分かる。そんな感じの風格がある。

わりと雲の上の人ではあるけど、文化財の保全活動などにも積極的で、ボクウッドや、江戸墨東博物館などの文化事業に土地を提供していたりしている。

“両国の女帝” 吉良義佳 きら・よしか
吉良家
当主(観測者)
性別:
年齢:69歳
「両国は祖先が愛した地。そして私が愛する地。今の伝統と歴史ある両国を守ることが私の責務と考えています」

両国一帯の土地の地主で、ボクウッドや江戸墨東博物館などの文化事業への支援に熱心なお金持ち。ついでに地元のヒーロー吉良上野介の子孫。それが彼女の表の顔だ。だけど、裏は違う。
『忠臣蔵』って話がある。吉良上野介に虐げられ理不尽な死を遂げた主君のため、赤穂浪士が立ち上がり、ついに吉良の首を取り仇を討ったという話だ。
墨東区で流布している話とは全く違う。ここまで言えば分かるだろう。一族の繁栄のため、彼女が仕組んだんだ。
彼女は観測者で、おそらく、望む虚構侵蝕を引き起こす方法を心得ている。
ボクウッドを誘致してドラマを作らせたのも、歴史文化を庇護するのも、虚構をより盤石にするためだろう。
彼女が最も警戒しているのは、虚構で築いた牙城が、別の虚構によって崩されることだ。だから両国で虚構侵蝕が起こった時は、オレたちの協力者になることがある。世の中、複雑なんだ。

墨東撮影所(ボクウッド)

そしてそして。両国に。いや、墨東区に見どころは数あれど、何が一番かと問われれば、そりゃああんた。この墨東撮影所。通称ボクウッドしかないでしょう。

ボクウッドをイメージした昔のヒット曲『墨東行進曲』曰く「金の都 輝く川面 キネマの楽園」「常春の墨東 永遠の墨東 キネマの世界」ですよ。

最初は、このへんの土地に江戸時代から残るお屋敷や街並みを時代劇のセットとして利用し始めたのがはじまり。その後、屋敷や街並みをオープンセットとして活かしつつ、規模を拡大して今のようなハリウッドにも引けを取らない撮影所になった。そのために、地主の吉良さんがかなり骨を折ってくれたとか。

広大な敷地の中には、時代劇から西部劇、西洋ファンタジーまでを網羅したいくつものオープンセットが点在していて、撮影スタジオも大小とり混ぜて100はあるという話。邦画、洋画、アジア映画などなど、世界中から、映画の撮影のためにクリエイターや監督、映画スターがひっきりなしに訪れている。

だもんで、普通にハリウッドや欧州、アジアのスターが、お忍びで墨東観光に繰り出していたりする。なかなか油断がならない。アタシくらいになると、スターや監督はもちろん、脚本家やプロデューサー、著名なスタッフの顔も覚えてるんで「推しが! 地元に!」と大変尊い気分になれる。

もっとも、ミーハーにサインをねだったりはしない。推しがお忍びで来てるんだもの。なるべくプライベートは放っておいてあげるのが粋ってものでしょ。

あと、観光事業もやっていて、スタジオツアーもできる。オープンセットではそのセットにあったコスプレ体験(何かの映画で使われた衣装だったりするとか)ができたりもする。あと、池のセットの中には動く首長竜がいたり、水上セットには動く巨大ザメがいたりと、謎のサービス精神を発揮していて微笑ましい。

時々遭遇するスターのファンサービス(そういう時の推しは仕事中だもの。サインも写真もねだり放題よ! ひゃっはー!)とかもあったりして……うん。尊すぎて死ぬかと思う。毎回。

まれにエキストラ募集とかもあって、映画の登場人物(モブ)になれるのもお得感ある。もっとも、編集長曰く「突発的に素人をエキストラに使うなど考えられない。撮影所で起こった虚構侵蝕に巻きこまれた記憶の残滓が、エキストラをしたという記憶として残っているんだよ!」とのこと。

本当だとしたら、ちょっとやばい。アタシのエキストラ経験、両手両足じゃ数えられないんだけど。

私立墨東学園(墨東学園都市)

アタシの母校。私立墨東学園は、明治の頃に「未来を担う自立した若者を自由の校風のもとに育成する」ことをモットーとした私塾、両国塾が前身の学園だ。

最初は小さな私塾でしかなかったのが「自由の校風のもとに育成」された若者たちが、いろいろと自由すぎる大活躍をしたため、いつの間にか幼稚園から大学院までを包括した巨大学園になったらしい。

広大(すぎる)キャンパスの中に、幼稚園から小学校、中学、高校、大学まですべてを網羅していて、生徒数は優に10万人を超える。ほんと、ちょっとした街レベル。別名「墨東学園都市」と呼ばれるだけはある。

広すぎて、校内の移動だけでも一苦労なもんで、敷地内にはトラムやバスが走り、そのまんま外まで出て行って、校外から通う生徒の送迎を担っている。

だもんで、かなり交通の便がいい。あと、偏差値もお手軽(普通科の場合。理数科とか国際科、一部の専門科は偏差値ナイトメア)なので、アタシは高校、大学とお世話になった。地元の同級生でも、小中は地元公立でそのあと墨東学園というコースはわりと定番。

そしてなにより、墨東学園を墨東学園たらしめているのが、最初にあった「自由の校風」。ほんまもんの馬鹿から、IQウン百の天才まで、奇人変人が普通に校内を闊歩していて、それが……まぁ、犯罪にならない限りは大体放置されている。

日本から、いや世界から、そんな自由すぎる逸材が山ほど入学してくる(学生寮もある)んでもう大変。

それで……うん。なんの因果か、アタシが高等部の生徒会長やってた話はしたっけ? いや、ちゃうねん。校内で「自由をはき違えて暴走している馬鹿」を何回かシメたら、なんかこう……校内でやりすぎたおバカをシメて回る役割と権限を押し付けられたというか。

あれって本当に生徒会長の仕事だったのかしら?

最近知ったんだけど、当時のアタシの仁義なき生徒会活動が、在校生の間では、尾鰭どころか手足と翼が生えて大空を飛翔しているみたい。……なんなの。校内の不良100人以上を1人で倒したって。

なんか、今度の文化祭に、今の生徒会長にゲストとして呼ばれたし。……い、行きづらい。行くけど。当日、アタシが一騎当千の超人になる虚構侵蝕とか起こんないかなぁ。

“お嬢様会長”桜条ジュリエンヌ
私立墨東学園
生徒会長(観測者)
性別:
年齢:17歳
「ごきげんよう。わたくし桜条ジュリエンヌと申しますわ。こう見えて生徒会長ですの。よろしゅう頼みますわ」

私立墨東学園の生徒会長、桜条ジュリエンヌは母親がフランス人のハーフで、関西の名家桜条家のお嬢様だ。
彼女は生まれつき観測者で、昔から虚構侵蝕を見てきたという。そして、本人曰く「あれは、多くの場合良くないものですの。たくさんの人が一生懸命築いた現実という宝物を、身勝手な妄想で塗りつぶす。そないな非道、許せませんわ」と思ったらしい。
そうして彼女は、地元でベテランの観測者として数々の虚構を収束させた。その際、彼女が「お師匠」と呼ぶ先輩観測者(関西弁のきついおっさんらしい)と長く組んでいたことが災いして、お嬢様言葉に関西弁のイントネーションが混ざる不具合を起こしている。
彼女が墨東学園へやってきたのは、観測者としての修行を積むためだ。
学内には、彼女を部長にした観測者部なる非公認の部活があって、虚構の収束に青春を燃やしている。

港湾地区


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港湾地区は、行く場所を間違えるとガチで危ない地区だ。両国地区から川をひとつ挟むと、いきなりスラム街が広がっているし、隅田川河口近くのベイエリアは、外国系のマフィアの縄張りになっている。基本的に地元民は近寄らない。ほんとここ日本?

そうかと思えば、レインボーブリッジから繋がるお台場のあたりは観光地化されて、国際空港はあるわ、墨東ビッグサイトはあるわと、温度差が激しい。

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円城市 イェンチァンシー (墨東スラム)

高度経済成長期からバブルにかけて、日本が世界経済を席巻した時代があった。その時代に、日本に大挙してやってきたアジア系の労働者たち(大多数が違法)が港湾地区にコミュニティを築き、移り住んだ。

それが、地元の住民が円城市(語源は日本円)と呼ぶ地域。昔は猥雑ながらも活気あふれる街だったらしいけど、日本経済の失速に伴って急速にスラム化。墨東スラムと呼ばれるようになった。内部には日本の法律の目が届かず、さまざまな犯罪組織が抗争を繰り広げる無法地帯になっていて、社会問題になっている。

円城市はその全域が老朽化した違法建築物で埋め尽くされている迷宮だ。その中でもいっとう目を引くのが、中心部にそびえる、香港にある九龍城を思わせる巨大複合違法建築マンション、 酷覇城塞 クゥパァーチャンジャイ (酷覇は木場の言い換えらしい)だ。

そして、この酷覇城塞を中心にして、地元住民による愚連隊や、日本のヤクザ、各国のマフィア(中国、東南アジア、シチリア、イギリス、ロシアetc)がシノギを削っていて、大手5勢力の頭文字を並べると「DAGER」になるとか。ほんとここ日本?(2回目)

高校時代、友達を助けるために入ったことはあるんだけど……いやぁ、死ぬかと思った。あのとき助けてくれた現地の少年(キッズマフィアのボスだったみたい)元気にしてるかな。……確か名前はマイティ君。

そう言えば、最近勢力を伸ばしてる組織のボスがマイティって青年らしいけど……まさかね?

“ザ・クロウ” マイティ・ ウー
リベンジェンス
リーダー(観測者)
性別:
年齢:18歳
「俺たちはリベンジェンス。この街は俺たちの家だ。それを踏みにじった奴らに復讐する。日和ってる奴はいない」

数年前。拐幇がベイエリアを牛耳り、追い出された非合法組織と、支配域拡大を狙う拐幇が円城市に流入。
今まで住民たちの間で独特の秩序を保っていた円城市は荒れに荒れた。
そして、非合法組織に乗っ取られそうになったとき、ひとりの若きカリスマが現れた。それがこのマイティ・烏だ。
彼は円城市の住人をまとめ、非合法組織に復讐して街を取り戻す武装組織“リベンジェンス(DAGERのR)”を立ち上げ、酷覇城塞を拠点にして、一進一退の攻防を続けている。彼は観測者でもあり、喧嘩の強さは伝説級(フィクションパワー)。彼に勝てた者はいないという。本人曰く「地元じゃ負け知らず」だそうだ。
もともと彼は孤児で、赤ん坊の頃に双子の妹(現在は行方不明)と聖フィロメナ修道院の孤児院に捨てられ、円城市の住人たちに支えられて育った。街に恩を返そうとしているんだろう。

ベイエリア(墨東港)

隅田川の河口に近いベイエリアと倉庫街は、表向きちゃんとした会社が運営している。けど、その裏では犯罪組織とズブズブの実質フロント企業になっているのは公然の秘密。日本の法律の目は基本届かず、カジノに売春宿、阿片窟まで、あらゆる違法な商売が公然と行なわれている。ほんとここ日本?(3回目)

で、そんなオイシイ場所だもんだからヤクザと外国の犯罪組織によるシマの奪い合いが激しい。最初の支配者だったヤクザは、あれよあれよという間に外国マフィアにシマを奪われて、そのマフィアもほかのマフィアに奪われて……という血で血を洗う仁義なき戦いが20年ほど続いた(子供の頃、ニュースでやってた)結果、今は中国系マフィアの拐幇が最大勢力となり、ここ数年は小康状態を保っている。

で、その拐幇。今度は円城市に勢力を伸ばしてきていて、ここ数年は独立を望む地元住人との武力衝突が絶えない。数年前、アタシが円城市でマイティ君と会ったのは衝突が始まったばかりの頃で、今はあのときよりも激しくなっているらしい。ほんとあそこ日本?

最近、拐幇の幇主(幇会のボス)になった蒲大人という人物がやり手らしくて……って、あー! いま、ヴァスって出てきた蒲大人の画像! こいつ、あのときアタシを攫ったやつだ! ここでは言えないような目に遭わせようとしたやつだ! マイティ君。助けてくれてありがとう。……今度、お礼しに行くかな。

蒲大人 プーターレン 蒲小熊 プーシャオション
拐幇 グァイバン   幇主 バンジュウ (観測者)
性別:
年齢:46歳
哎呀 アイヤー ! 虚構侵蝕を利用した私の完璧な計画、よくも邪魔してくれたアルね。覚えてるヨロシ。 再見 ツァイチェン !」

ベイエリアではかつて、非合法組織同士の抗争が繰り広げられていた。その抗争を勝ち抜いたのが、蒲小熊が幇主を務める中国系マフィア、拐幇だ。
拐幇は、次の狙いを円城市に定め、今では円城市を分割統治するDAGER(5つの組織の頭文字)のGにあたる。
蒲小熊は観測者で、陰謀を愛する男だ。虚構侵蝕をめざとく見つけ、それを組織の勢力拡大に利用する。それが拐幇の大躍進の秘密。中国には同じ手を使う非合法組織がある。何か関係があるのかもしれない。
しかし、虚構を利用した作戦は、最近停滞している。円城市の住民に手を貸す観測者の妨害に遭っているからだ。
でも、蒲小熊は計算高いだけの男じゃない。武術の達人で、場合によっては武力でゴリ押ししてくる。そして、不利を悟ると、すぐさま得意の軽功で逃げに徹する(大体部下は見捨てる)。
奴を捕らえるのは至難の業だろう。

聖フィロメナ修道院

そんな殺伐としている港湾地区だけど、殺伐としていない場所もある。それこそが、円城市とベイエリアの緩衝地帯に建つ教会。聖フィロメナ修道院だ。

ここでは、行き場を無くした難民や怪我人などを分け隔てなく(ベイエリアのマフィアでも!)受け入れて、必要な支援を与えてくれるらしい。

特に子供の保護(聖フィロメナは子供の守護聖人なので)には積極的で、孤児院で身寄りのない子供たちを守っていて、修道院に手を出す勢力はないみたい。

おそらく、こんなバイオレンスな土地柄だけど、神の家に悪事をはたらこうって人はいないんだろうな。

……そう思っていた時期がアタシにもありました。さっき聖フィロメナ修道院は殺伐としていないと言ったな。あれは嘘だ。ヴァスったらこの修道院、百戦錬磨の武装修道女たちが武力で中立を保ってる。

「修道院には手を出すな」「関係者にも手を出すな」「子供にも手を出さないのが無難(孤児院の子供だったらヤバイ)」があのへんの不文律とか。

そして、武装シスターの中でも“ガンシンガー”の異名をとるシスターがいて……って、うわぁ。この黒人のオバちゃん、知ってる。アタシとマイティ君のピンチに颯爽と現れ

て、ゴスペル歌いながら銃乱射して、マフィアを蹴散らしてた、映画みたいなオバちゃんだ。あのときは普通の服着てたから気づかんかった。

これは本気で、菓子折り持ってお礼に行かなきゃ。

“ガンシンガー”ハレルヤ金城
聖フィロメナ修道院
修道院長(観測者)
性別:
年齢:60歳
「子供を虐める罪人には、あたしが天使のラブソングを聞かせてやるのさ。もちろん主の御許の特等席でねぇ!」

港湾地区の住人の合言葉に「聖フィロメナ修道院には手を出すな」という言葉がある。なぜか。ヤバいからだ。
円城市とベイエリアの中間点にある聖フィロメナ修道院と運営する孤児院は、一見さびれた教会にしか見えない。
しかしその内情は、スネに傷を持ち、信仰を武力で守ることを厭わない「ガンシスター(武装修道女)」の巣窟だ。港湾地区最大の武装勢力とも言われる。
彼女らは基本的に、修道院が攻撃されない限りは中立の立場だけど、子供が被害に遭ったと聞けば飛んでくる。
一応、悔い改め「手打ち金を喜捨」すれば手を引くらしいが、号泣しながら喜捨するレベルの額が必要らしい。
そのガンシスターの中でも修道院長のハレルヤ金城は別格。朗々とゴスペルを歌いながら銃を乱射し、神の加護で百発百中。彼女の身体は神の愛で護られて無敵。普段は温和で優しい「ハレ婆さん」らしいけど。本当か?

墨東国際空港

墨東国際空港は、円城市とお台場エリアの間にある。狙って作ったわけじゃなくて、円城市が後からできちゃったパターン。なので、空港の円城市側には壁が築かれ、警備は超厳重。誰が言ったか「ボクトウの壁」。

そのくらい安全に気を付けているこの空港だけど、よくハイジャックや空港占拠事件に巻きこまれる。アタシも前に巻き込まれた。そのときも、ブルース・長谷川さんに助けてもらったっけ。……なのにみんな、ここを利用するのをやめない。さすがにヘンかも?

お台場エリア

とまぁ、日本とは思えない地域を抜ければ、そこは東京を代表する観光地、お台場エリアがある。

大手テレビ局の本社ビルをはじめ、ショッピングモールに遊園地、各種エンタメ施設。某巨大ロボット立像(実際に動いて戦う説あり)。夏と冬の祝祭が行なわれる我らが聖地、墨東ビッグサイトもある。汝、年2回の巡礼をゆめゆめ忘れるなかれ。

ちなみにお台場エリアへは、首都高速や地下鉄を使ったり、一般道でもレインボーブリッジ経由で行けば、スラム街を通らないでも安全に行ける。

でも、なんだこの構造。海外でも街の中心部と郊外のベッドタウンの間にあるスラム街を、ハイウェイで跨いだりする例がわりとあるんで、不思議じゃないんだけど、しっくりこない。何かヘン。チグハグ。

編集長曰く「円城市もまた、虚構侵蝕の結果できた街なんだよ!」とのことだけど、なんかちょっと、分かる気がしてきた。やばい。洗脳されかけてる?

……ま、いっか。よし。ちょっと本腰入れて調べてみるとしますかね。虚構侵蝕ってやつの正体を!

公式NPC一覧
分類 行動 使用 行動 備考
組織 スティーブン・クロサワ 55歳 アルカイックスタジオ代表/映画監督。虚構侵蝕での出来事を映画にしつつも、彼の映画が虚構侵蝕になることもある。観測者。
フランク・グリーディー博士 68歳 シェリー製薬/研究主任。マッドサイエンティスト。虚構侵蝕を使った実験を繰り返している。観測者。
松田論 43歳 VER-TH社長。ソーシャルプラットフォームVER-THの生みの親。観測者と思われる。
水月鏡花 不明 九龍/日本関東支部“紅龍”黒幕。メディアを利用して虚構侵蝕の発生を監視。計算高く慎重。観測者。
ロイド・モーガン 46歳 PHALANX/CEO兼UST対策本部長。元陸軍少佐で目的の為なら犠牲を厭わない。観測者。
墨東区 アクションレッド 外見25 墨東ドームシティのスーツアクター。昔の番組“映画戦隊シネマスターズ”のレッドの虚構体。正義に生きる男。
イエヤスサマ 479歳 男性格 東照宮のマスコット/東照大権現の化身。東照宮に住む野生の狸のフリをした、東照宮の神本人。虚構体で観測者。
稲成太夫 いなりだゆう 30代(?) 吉原遊郭の花魁/吉原神社のお稲荷様。吉原一の花魁。その正体は狐の妖怪(お稲荷様。虚構体)。観測者。
宇津呂ミルコ 17歳(固定) 女の子(魂) バーチャルVER-Tuber。秋葉原に本拠を置き、虚構の収束に情熱を燃やす観測者の配信者。
虚影灯 うろかげ・あかり 20代(?) 喫茶幻燈メイド長。喫茶幻燈(アンカー)で働くメイド。虚構の収束のためPCたちに力を貸す。観測者。
江楠・K・仁子 えくす・クロエ・じんこ 36歳 墨東大学病院の嘱託医。常識外れの医療技術を持つスーパードクター(侵蝕者)で、非観測者。
桜条ジュリエンヌ 17歳 私立墨東学園の生徒会長。生まれつきの観測者でお嬢様。虚構の収束に情熱を燃やすベテラン。
吉良義佳 きら・よしか 69歳 吉良家当主。虚構侵蝕を利用し『忠臣蔵』を改変。両国の実力者になった観測者。
トーマス・ H ハンク ・川村 48歳 東京芸術大学の美術史教授。北斎の子孫。北斎の浮世絵に隠されたホクサイ・コードの探究者。非観測者。
ハレルヤ金城 60歳 聖フィロメナ修道院の修道院長。子供を虐げる者は許さない。神に護られた無敵の武装修道女(ガンシスター)。観測者。
檜久間成水 ひのくま・なるみ 24歳 虚構タイムズVER-TH版・新米記者。江戸っ子女子。虚構侵蝕の取材に熱心だが、非観測者なので、まともな記事が書けない。
蒲小熊 プーシャオション 46歳 拐幇・幇主(グァイバン・バンジュウ)。虚構侵蝕を利用して勢力拡大を狙うマフィアのボス。武術の達人。観測者。
ブルース・長谷川 40歳 墨東警察西分署・重犯罪課刑事。行く先々で凶悪事件に遭遇し、解決する不死身の男(侵蝕者)。非観測者。
マイティ・ ウー 18歳 マフィアからスラムの住人を守る武装組織リベンジェンスの若きリーダー。観測者。
都鳥蜃一 みやこどり・しんいち 24歳 ドリヰムシアタアの支配人兼映写技師。ドリヰムシアタア(アンカー)で働く映画オタクの青年。非観測者。
三日月宗近 みかづきむねちか 約1000歳 男性格 国立科学博物館所蔵/国宝/天下五剣の一振り。飄々とした老人の人格の持ち主。PCに力を貸すこともある。虚構体で観測者。
ゆうこ(仮) ?? 隅田公園の幽霊。死別した家族と再会を願う。「そういう設定の虚構体」説あり。観測者。
万纏 よろず・まとい 22歳 アメ横地下街(アンカー)にある観測者向けの店、卍屋の店主。

虚構侵蝕TRPG 書籍版ルールブック

シナリオ集 フィクションオブセッションⅠ

アニメソースブック リアリティライン

神話ソースブック ミスプレミス